( ´_ゝ`)兄者は約束を果たすようです
1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/09(土) 00:05:00.80 ID:V33wQ8XG0
昔から俺は1人で寝る事が出来ない子どもだった。
物心ついた頃から俺の隣には常に弟者がいて、俺達が離れる事なんて想像も出来なかった。

真夜中、月明りが差さない暗い夜に眠れず
終わりのない暗闇に押し潰されそうになっていると
隣で寝ていた弟者が俺の様子に気付いたらしく話し掛けて来てくれた。

(´<_` )「眠れないのか?」

( ´_ゝ`)「ああ。弟者もか?」

(´<_` )「夕方寝て、目が冴えてしまったからな」

( ´_ゝ`)「そうか」

話はそこで一度尽きる。けれど、この沈黙は決して嫌なものではない。
むしろどこか心地よくなる、そんな感覚だ。
それは友達や親、他の兄弟には抱かない独特の心地よさで、その温かさに俺は自然と頬を緩めた。




( ´_ゝ`)兄者は約束を果たすようです

2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/09(土) 00:05:42.14 ID:V33wQ8XG0
( ´_ゝ`)「そういえば」

(´<_` )「何だ?」

( ´_ゝ`)「明日伊藤が遊ぼうって言ってたんだけど」

(´<_` )「……だけど?」

( ´_ゝ`)「俺、明日外出るの面倒だから代わりに行ってくれないか?」

(´<_`*)「……兄者がどうしてもというなら考えてやる」

( ´_ゝ`)「素直に伊藤と話せて嬉しいって言えよ」

(´<_`*)「違うんだからな! そんなんじゃないんだからな!」

( ´_ゝ`)「どうだか」

3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/09(土) 00:06:22.03 ID:V33wQ8XG0
弟者の赤くなった頬を指でつつき、からかいながら俺は答えた。
普段はクールガイなリア充弟者が頬を朱に染める位嬉しい理由は俺のクラスの伊藤が大好きだからだ。
けれど弟者は女の子とはあまり話せない。決して内気な訳じゃないけれど、異性と話すとほんの少し緊張するようだ。

そうとなれば、やはり兄として可愛い弟の恋は応援したいものだ。
誘ってくれた伊藤には悪いが、明日は俺じゃなくて弟者と遊んでもらおう。

( ´_ゝ`)「そうと決まればもう寝るぞ。明日は早いんだからな」

(´<_`*)「ああ……」

そう言って俺は布団を被り直した。隣では弟者がまだそわそわしているのが背中から感じる。
早く寝ろ、と声を掛けて瞼を閉じると今度はちゃんと眠れそうだと思った。
何故だか知らないが、そんな気がした。

4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/09(土) 00:07:29.69 ID:V33wQ8XG0
俺が目を覚めますと既に弟者は出掛ける準備をしていて
どこから取り出したのか全身黒のタキシード姿でご丁寧に蝶ネクタイまでして決めていた。
なるほど、リア充は女の子と遊びに行くときは紳士な服を着るのか。
仮に俺がリア充だとしても絶対こんな格好はしたくはないな。

( ´_ゝ`)「随分張り切ってるな。まだ約束の時間でもないぞ」

(´<_`*)「だって伊藤さんと会えるんだぞ? 遅刻なんかしちゃダメだろ」

( ´_ゝ`)b「俺はいつも遅刻だけどな……まぁ上手くやれよ」

d(´<_` )「もちろんだ」

互いにガッツポーズをすると、硬い表情の弟者が階下へと歩いて行くのをあくびをしながら見送った。
面倒だからとは言ったものの、まともに女子と話せない弟者の事だ。
きっと戸惑って上手く話せないに決まってる。
俺は急いでパジャマを脱ぐとそこら辺にあった服を着て、慌てて弟者の後を追った。

5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/09(土) 00:08:10.90 ID:V33wQ8XG0
一階に降りると弟者は既に家を出た後だった。
早く弟者の後を追わなければと思った俺は、朝食も取らずに玄関に向かい
靴の踵も踏んだまま伊藤と約束していた場所へ走って行った。

途中、弟者に会う事も伊藤に会う事もなく誰よりも先に目的の場所に着いた俺は
待ち合わせ場所でもある児童館の大きな木に登って上から弟者達の様子を見物する事にした。
しかし、運動神経が全くと言っていい程ない俺が木に登るのはとても大変な事で
一番低い枝によじ登れた頃には既に伊藤は木の下で待っていた。

(;´_ゝ`)「ひぃ……ふぅ、伊藤も来るの早いもんだな」

そんな事を一人ごちていると、木の影から弟者が遠慮がちに顔を出して伊藤の前に現れた。
普段男友達と一緒にいる時は、肩を小突き合ったり冗談を飛ばしているのに
今は文字通り緊張した様子で、顔なんか離れていてもわかる位真っ赤にしている。
伊藤が弟者に声を掛けるより先に、弟者は伊藤の前に立って右手を胸に添えて深くお辞儀をした。

(´<_`*)「こんにちは、伊藤さん」

('、`*川「あら、珍しく早いわね……ってあれ?」

(´<_`*)「えっと、兄者が来れないって言ってたから……その、代わりに来ました」

弟者の、普段しないような穏やかな口調と丁寧すぎる言葉に笑いたくなったがここはひとまず我慢だ。
木の下では予想外の弟者の出現で驚いている伊藤の姿と、大好きな伊藤の前で固まっている弟者が見えた。
そもそも弟者の格好に何一つ文句を言わず普通で接している伊藤が凄いな。
やはりアレは普通の格好なのだな。一体全体いつから日本はレディファースト文化になったんだ。

7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/09(土) 00:09:30.26 ID:V33wQ8XG0
('、`*川「はぁ……変なの。それにしても顔赤いけど大丈夫?」

(´<_`*)「いや、あの……その、えっと」

('、`*川「熱でもあるんじゃないの?」

伊藤が心配そうに弟者を見ながら弟者の額に手を当てる。
そんなベタな展開に弟者は奇声を上げながら悶えていた。
これには流石の伊藤もおかしいと気付いたのか、少し引いた様子で弟者の顔をジロジロと見た。

('、`;川「ちょっと、本当に大丈夫?」

(´<_`;)「ああ……すまない。ちょっと緊張してしまって」

もはや緊張ってレベルじゃないくらいに挙動不審な弟者はぎこちない笑いをしながらそう言うと
懐から紙のような何かを取り出すや否や片膝を立てて、
昔の映画でよくありそうな恋人でよくありそうなプロポーズの体制になり、その紙を伊藤に渡したのだった。
これには流石の俺も笑ってしまった。お前はいつの時代の人間なんだと激しく問いかけたかった。

('、`*川「あら、これは……」

(´<_`*)「ユニバーサル・スタジオ・ニチャン、通称USNのペアフリーパス権です」

(;´_ゝ`)「ぬわあにいぃ!?」

9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/09(土) 00:10:26.42 ID:V33wQ8XG0
ユニバーサル・スタジオ・ニチャンといえば世界トップレベルの大型テーマパークだ。
年間三十億人以上が訪れるその夢の国は連日人で溢れていて、
朝一番にチケットを買いにいっても半日経ってようやく園内に入れると言われているほどの満員御礼で有名だ。
それと同時にアトラクションのスケールも忘れてはいけない。とにかく生きていたら是非一度は見たい場所なのだ。

そんな、入手困難のテーマパークチケットを持っている弟者に対して怒りを覚えた俺は
木の枝に抱きついたまま憎き弟に怨念を送っていた。

(#´_ゝ`)「弟者の奴め……俺だって行きたいのに自分だけ伊藤と二人で……この糞野郎め」

誰も聞くことがない悪態を呟いていると、下の方では俺を置いて勝手に話が進んでいた。
その様子を見ると、どうやら伊藤は弟者の誘いを断ったらしい。
弟者が絶望したかのように両膝と両手を地面につけているのがちょうど俺の真下に見えた。

伊藤は落ち込む弟者を面倒くさそうに一瞥しながら
腕に巻かれていた時計を確認して弟者の前にしゃがみ込んだ。
そういえば今日の伊藤はスカートをはいていたな。もしかしたら弟者の角度から伊藤のパンツでも見れるんじゃないか。

('、`*川「私今から家の手伝いがあるからもう行かなきゃ行けないんだけど……大丈夫?」

( <_  )「だ、大丈夫です……」

('、`*川「ごめんね。じゃあまた学校でね」

10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/09(土) 00:11:02.16 ID:V33wQ8XG0
そう言って足早に去る伊藤を木の上から見送ると
未だに絶望から逃げられない弟者が木の下でうな垂れていた。
先ほどまでは糞野郎だの何だの言ってしまったが、冷静になってみるとかなり可哀想だ。

イケメンの割りにどこかずれている可哀想な弟をお兄ちゃんが全力で慰めてやろう。
そう思って木から下りようと体勢を変えたら、突然枝元が軋む音を立てた。
嫌な汗が、俺の頬を滑り落ちてゆく。

(;´_ゝ`)「ちょ、待って。まだ落ちないd」

どうすればいいのかわからず、うっかり体重を前に掛けてしまった時には既に遅かった。
脆くなっていた木の枝は激しい音を立てて本体である幹から分離し
重力に逆らうことなく、俺を乗せて地面へ急降下をしていった。

身体に痛みが走る寸前、地面よりも柔らかい物体にぶつかった気がした。
落下直後まで抱きしめていた枝は地面とぶつかったことにより折れてしまい、
腕に抱えている木の片割れは柔らかい地面に横たわる俺の隣で倒れていた。

身体痛いな、なんてのんきに考えていると俺の下で何かが唸る声がする。
地面が俺と衝突して痛いと言ったのかと思ったけど、そんなファンタジーな展開を期待する程俺は夢見る年頃でもない。
幽霊だったらどうしようと思いながら下を見てみると、地面とキスをして倒れていた弟者が俺の下にいた。

( ´_ゝ`)「俺のために死ぬなんて……なんていい弟なんだろう」

(´<_`#)「勝手に人を殺すな。自分から落ちてきたくせに」

そう言って弟者は俺を地面に落とすと、汚れたタキシードを軽くはたいて立ち上がった。
心なしか、弟者が少し悲しそうな表情をしているのは気のせいではないだろう。
打撲で痛む身体を無理やり奮い立たせた俺は、哀愁漂う弟者の肩を優しく叩いた。

12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/09(土) 00:12:00.48 ID:V33wQ8XG0
( ´_ゝ`)「ところで伊藤のパンツの柄何だったかわかるか?」

(´<_` )「伊藤さんを汚すな」

弟者の拳が俺の頬に強く当たる。
ただでさえ木から落ちて身体が痛いのになんて奴だろう。少しは兄を敬え。
二次災害を受けた頬を撫でながら先に歩いていく弟者の後を追い、隣に並んで歩く。

( ´_ゝ`)「ところで何で断られたんだ。俺だったらUSNに行かないかと言われたら
       相手がどんなムカツクリア充でイケメンな奴であろうと一緒に行ったのに」

(´<_` )「……今忙しいってさ」

( ´_ゝ`)「ほう。まあUSNには俺が一緒に行ってやろう」

(´<_` )「何でだよ気持ち悪い」

( ´_ゝ`)「だって弟者、他にまともに話せる女なんていないだろ。可哀想だから一緒に行ってやるよ」

(´<_` )「ヒキオタな兄者に心配されるほど女の子には困ってない。
       伊藤さんとしかまともに女の子と話せないくせに」

( ´,_ゝ`)「羨ましいだろう? 弟者は伊藤と話せないからな」

(´<_`#)「いちいちムカツク事言うんじゃねぇよ糞オタクのくせに」

13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/09(土) 00:12:45.44 ID:V33wQ8XG0
再び襲い掛かってきた弟者の拳を華麗に受け流しながら逃げると
後ろから弟者がすさまじいスピードで追いかけてきて、結局殴られてしまった。

決してマゾという訳ではないが弟者とこうしてふざけ合う時が一番楽しい。
俺の記憶が正しければ母者の子宮の中で分裂した時から似たような事をして来たハズだ。
そのくらい俺たちはつまらない事で喧嘩ばかりしていて、どうしようもないことで笑い合って来た。

それは、これからも変わらないことであると思っている。

( ´_ゝ`)「折角だから今からゲーセンでも行って遊びに行くか」

(´<_` )「構わんが頼むからオシャレ魔女ゲームだけはしないでくれ。見ているこっちが恥ずかしい」

結局その日は弟者とゲーセンでオシャレ魔女をプレイして来た。
周囲の女の子たちからは変態の目で見られたり、俺の持つスーパーカードコレクションに羨ましがられたりと
比較的充実した休日を過ごせたと思う。

弟者といえば、女の子の輪に入りきれず一人格ゲーをしていたらしい。
そんなんだからいつまで経っても彼女が出来ないんだと、鼻で笑って言ってやると
幼女がストライクゾーンの変態に言われたくないと言われてしまった。

そうしている内に夕方になり、俺達は家に帰って夕飯を妹者と三人で食べた。
母者と姉者は二人で買い物へ出掛けていて、父者は残業で遅くなるからだ。
唯一のレパートリーであるカレーは思いの他上手く出来たらしく、妹者は二回もおかわりをしてくれた。

夕飯を食べ終えて部屋に戻ると、久しぶりに平日以外で外に出たせいか早い時間から睡魔が襲ってきた。
寝るなら風呂に入れと言う弟者の声を子守唄にしながら
まどろみの中、俺はベットに入り眠りについた。

14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/09(土) 00:13:27.81 ID:V33wQ8XG0
茜色した夕日が差す公園には先程まで遊んでいた友達はみんな帰ってしまい、
つまらなそうにブランコに座っている幼い弟者だけがそこにいた。
錆びたブランコ特有の古い音を立てながら誰かを待っている弟者の背中にゆっくりと近付くと
悪戯心を掻き回された俺は素早く弟者の両目を手で覆い隠した。

( ´_ゝ`)「だ―れだっ」

視界を遮られた弟者は一瞬身体を強張らせたが
聞き覚えのある声に警戒心を解いたらしく足を宙に浮かせながら低く唸り声を上げる。
一応いつもと違った声を出したものの普段から一緒にいる弟者だ、きっとすぐにわかってしまうだろう。


(⊃<_⊂ )「ん―……ドクオでもブーンでもないな…………。
      わかったぞ、兄者だな」

( ´_ゝ`)「ファイナルアンサー?
       まぁどっちにしても俺らしか公園にはいない訳だが」

予想通りの返答に満足したような、予想通り過ぎてつまらないような複雑な心境の下
弟者の視界を覆っていた手を離すと同時に弟者が首をこちらに向けて来た。
俺の顔を見るなり満面の笑みを浮かべた弟者はブランコから降りると、
脇に置いてあった黄色のボールを器用に足で蹴り上げて手中に収めてみせた。

15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/09(土) 00:14:04.60 ID:V33wQ8XG0
(´<_` )「どこに行ってたんだ。暇で暇で死にそうだったぞ」

( ´_ゝ`)「ドクオ送るついでにアイツん家の時計見て来た。そろそろ時間だからもう帰ろう」

(´<_` )「やだ。もっと遊びたい」

( ´_ゝ`)「わがまま言うな。母者に殴られても知らんぞ」

(´<_` )「母の怒り 二人で受ければ 怖くない
                      弟者 心の俳句」

( ´_ゝ`)「字余り乙。とにかく今日は帰ろう。俺達には明日があるんだから」

不貞腐れる弟者を無理矢理説得すると、俺達は二人並んで公園を出た。
赤い夕日をバックに映る、細く伸びた二つの影を見てどちらの背が高いか比べたり
信号の所まで影踏みをしようと言って弟者から逃げたりして帰り道を渡る。

16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/09(土) 00:14:30.05 ID:V33wQ8XG0
家までもう少しと来たところで、俺達は数日後に行われる春の遠足の話で盛り上がっていた。
小学校に入っての最初のイベントに心躍らせていた俺は腕なんか振って興奮を身体で表現させていた。

( *´_ゝ`)「遠足ではマントヒヒにもヒトコブラクダにも会えるんだぞ。今から楽しみだな」

(´<_` )「ああ。……だが俺はまだクラスで友達がいないからな……寂しいな」

( ´_ゝ`)「そんなの俺も一緒だぞ。未だにドクオとブーンとしか話せないし」

(´<_` )「だが逆に言えばドクオとブーンという友達がいるという事ではないか。
       ……俺も兄者と同じクラスだったら良かったのにな」

双子であるが故に俺達が同じクラスになる事はなかった。
幸いにも俺のクラスには幼馴染みのブーンとドクオがいるから寂しくはないのだが
俺に似て人見知りの気がある弟者には小学校に入ってから未だに友達をつくり切れずにいた。

地面に転がっている石ころを蹴りながら
どこか寂しそうな不陰気(頑張って変換してみた)を醸し出す弟者に対して
どうすれば良いかと考えていると、我ながら最高にナイスなアイディアが浮かんだ。

( ´_ゝ`)「なら遠足の時には俺と一緒に行動すればいいじゃないか!」

17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/09(土) 00:15:00.74 ID:V33wQ8XG0
あまりにも天才的な考えに自画自賛してしまっていたが、弟者の反応はイマイチしっくりこない。
当時から無駄に大人びた印象を持っていた弟者は、呆れたような目で俺を見ると溜息を一つ吐いた。

(´<_` )「何を言ってるんだ。遠足では弁当の時以外クラス行動と言われていただろう。
       先生に見つかったら怒られるに決まってる」

( ´_ゝ`)b「そんなの見つからなければ平気だろう。
        それに知ってたか? 双子という生き物は常に一緒というのが相場なんだぞ。」

胸を張ってそう言える自信が確かにあった。
テレビや漫画で出て来る双子は必ずといっていい程いつも一緒だったからだ。
歳の差がある兄弟とは違う、瓜二つの兄弟の間にある絆の強さを紙面や画像で見る度に
俺達も常にこうありたいと願っていた。

普段なら俺の話なんて左から右へ受け流す弟者だっだが
今日に限って俺の話に食いついて来たらしく、意外そうな目で俺を見ていた。
ほんの少しの沈黙の後、弟者は俺から視線を外し
ボールを地面に放り投げて足で蹴りながら前だけを見て話し始めた。

(´<_` )「そういうものなのか?」

( ´_ゝ`)「そういうものだ! 俺の言う言葉に間違いがあると思うか?」

(´<_` )「思う」

( ´_ゝ`)「即答かよ」

19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/09(土) 00:16:34.24 ID:V33wQ8XG0
頭を垂れてうなだれてみるが、弟者がこうも天邪鬼なのは今に始まった事でもない。
過去、俺が馬鹿正直な弟者を何度も騙したのが原因のような気もするが
それを抜きにしても弟者は俺の言うことに対して常に反対の言葉を唱えていた。

それは今日も同じことだと思った俺は結構本気に話した話を軽くあしらわれてしまったことに悲しくなり
重い溜息を吐き出すと悲しみを紛らわすために頭を軽く振った。
俺の心中なんか知らない弟者は俺の方を見ながら一拍おいて、だが、と言葉を更に続けた。

(´<_` )「双子は常に一緒、だというのは信じるぞ」

……パードゥン?
今この瞬間の俺は物凄く驚いた情けない顔をしていることだろう。
信じる、なんて意外な言葉が捻くれ者の弟者の口から聞けるなんて思ってもみなかった。

夢かと思って頬を抓ったが微妙に痛い。
そんな俺を見て弟者は馬鹿にしたような顔で俺の鼻を思いっきり抓りやがった。
前言撤回。やっぱり弟者はかなりの捻くれ者だ。

20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/09(土) 00:17:03.60 ID:V33wQ8XG0
しかし、弟者の言葉に嬉しくなったのは事実であって
俺は感情に任せて弟者の手を握り締めて念入りに先ほどの発言の再確認をした。

( ´_ゝ`)「本当か? 本当に信じるか?」

(´<_` )「ああ。何なら指切りしても構わない」

そう言ってニヤリと笑いながら小指を出して来た弟者に対して
俺も弟者と同じような表情をして弟者と小指を絡めた。

幼い俺達にとって、指切りは命を捧げると言ってもいいくらいに大事な儀式の一つであった。
儀式、なんて言葉は当時の俺達には理解できなかったが
とても大切な約束事をするときには欠かせない物だと俺達の中で決まっていた。

普段は怠け者でどうしようもなく嘘つきな俺も、指切りの際に交わされた約束を破ったことは一度も無い。
もし破ったら、何て考えは最初からなかった。俺達は必ず二人の間に交わされた約束を守るし、破ることもない。
どこかでそんな自信が俺と弟者のなかにあったのだ。

( ´_ゝ`)「ゆっびきりげ―んま―ん嘘ついたら針千本の―ます!
       俺達はず―っと一緒にいる!」

(´<_` )「ゆ―びきった!」

互いに振られていた拳が離れる。
その反動で尻餅を着いてしまうと、弟者がしようがないとでも言いたげな顔をして
俺の服を掴んで無理やり立ち上がらせてくれた。

21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/09(土) 00:17:34.76 ID:V33wQ8XG0
約束の儀式を交わした俺達は大通りに辿り着いた。
家に帰るにはここが一番早い近道で
遊びすぎて門限の時間が差し迫っている時は必ずここの交差点を通っていた。

夕方の大通りにはあまり車が通っていない。
というのも、この時間帯は開かずの踏み切りにかかってここまで来れない車がほとんどだからだ。
だから俺達も含めて道路を横切って行く人は結構いた。

しかし、そんな事している事を母者が知ったらどんなお仕置きを受けるかわからなかったから
ある程度車が通っているときだけ交通ルールに則って信号を見て渡っていた。
その際は変なところで生真面目な弟者の意向に沿って、しっかり右手を掲げて渡っていた。

車は案の定ほとんど道路を走っておらず
会社帰りのサラリーマンが左右を確認しながら走って道路を横断していた。
信号機のところまで行くのが面倒くさかった俺は弟者に道路を横切っていこうと言うと
弟者はあからさまに嫌な顔をして首を横に振ったのだった。

22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/09(土) 00:18:38.33 ID:V33wQ8XG0
そんな風にして言い争っている内に弟者は足元で転がしていたボールを俺に向かって蹴ると、そのボールは見事俺の腹に衝突した。
勿論、弟者もある程度は加減をしてくれてはいたが
自分の意向が思い通りにいかず苛立っていた俺は、思い切り弟者に向かってボールを投げてしまった。

運動オンチの俺が投げたボールは弟者に当たらず大通りに向かって行ってしまい
ヤバイ、と思ったときにはボールは既に大通りに飛び出して行った。

(;´_ゝ`)「やっべ、ボール飛んでいっちまった」

(´<_` )「相変わらずの運動オンチだな……。俺に任せろ、すぐに取り戻してやる」

弟者はそう言うと左右を確認して颯爽と道路に飛び出した。
俺と違って運動神経抜群の弟者の足はボールとの距離を徐々に縮めようやくボールに届くと足でボールを止めて拾い上げる。
ああ良かった。そう思った俺が安堵の息を漏らしたその時だった。






ボールを手に取った弟者が俺の方を振り返った時、突然弟者がその場から消え去った。

23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/09(土) 00:19:21.66 ID:V33wQ8XG0
いや、厳密には宙を舞ったという表現が正しいのかもしれない。
小さな弟者の身体は車の上を飛び越えると、骨と地面がぶつかる激しい音を立ててアスファルトにその身体を打ち付けられた。
更に後方から猛スピードでやって来た車が、目の前の弟者を無視して轢いていく。

車のタイヤに潰された弟者の身体はべったりとアスファルトに付着しているように見えたが
後から来た車がアスファルトに付着した弟者を引き剥がすように突き飛ばした。
全ての車が去っていった後には一人倒れている弟者がそこにいた。

アスファルトに横たわる弟者の服はボロボロで身体からは大量の赤い液体が弟者から流れている。
足と腕は有り得ない方向に曲がっていて、顔は傷だらけで表情が判別出来ない程だ。
車道と歩道の境目に飛ばされた弟者の近くまで寄ると俺はその場に座り込んだ。

( ;_ゝ;)「……お……と、じゃ」

気がつけば涙が溢れていた。
血生ぐさい臭いも、身体が汚れてしまう事も気にしないで弟者を抱き上げると
血だらけのその顔を手で拭って綺麗にしようとした。
弟者の身体は心なしかまだ温かくて、呼び掛ければ返事をしてくれるのではないかと思った。

( <_ )「……き」

( ;_ゝ;)「え?」

そんな事を考えていると、気のせいか弟者の声が聞こえた気がした。
もう一度耳を傾けると確かに弟者の口から声が聞こえて来た。
弟者は生きている。そう思った俺は真っ赤になった弟者の顔をもう一度服の裾で拭った。

24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/09(土) 00:20:14.79 ID:V33wQ8XG0
( ;_ゝ;)「弟者! 生きてるんだろう!? 何か言えよ馬鹿野郎!」

涙が頬を伝って弟者の上に落ちていく。
水滴は弟者の血と混じって不透明な赤に変わり、弟者の顔をぼかした。

血の出所がわからないから止血も出来ない。
先程まであった人影は見あたらなくなり、大人の人を呼ぶこともできない。
公衆電話まで走って救急車を呼ぼうにも、こんな状態の弟者を置いてはいけない。

止まらない身体の震えを抑えられずにいると、突然弟者が強い力で俺の首を締め上げた。
詰まる息にただ呆然としていると弟者の赤い顔がはっきりと見えた。
顔は傷だらけで、片方の目は潰れてしまった弟者は掠れた声で先程俺に投げた言葉を再び告げた。



(゜<_ヾ )「 嘘 つ き 」



真っ赤になった視界の中で俺は泣きながら謝罪の言葉と弟者の名前を声にならない声で叫び続けた。
何度も何度も、血に濡れた弟者に向かって叫び続けた。

25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/09(土) 00:20:45.33 ID:V33wQ8XG0
∬;´_ゝ`)「兄者! 兄者起きて!」

( ;_ゝ;)「……っ!」

次に目が覚めるとそこは俺と弟者の寝室の天井が見えた。。
側にはいつの間にか姉者がいて、心配そうに俺を見下ろしている。

∬´_ゝ`)「大丈夫?随分うなされてたわよ」

( う_ゝ⊂)「……平気だ」

上体を起こし、涙で濡れた顔を無造作に擦ると姉者が水の入ったペットボトルを渡してくれた。
有り難く受け取り水を喉に流し込むと、とても喉が渇いていたらしくペットボトルはすぐに空っぽになった。
汗をかいたせいで服が濡れている。けれど、それよりも先程の夢が俺の頭の中を駆け巡った。

∬´_ゝ`)「またあの夢を見たの?」

( ´_ゝ`)「…………」

姉者の言葉に頷いて返事をすると、一瞬どこか違和感を感じた。
何かか足りない。そう思って隣を見ると、眠りに就くまでそこにいたはずの弟者がいなくなっている。
どこへ行ったのだろうか。途端に俺の中が夢に対する恐怖から、弟者がいない不安へと変わっていった。

26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/09(土) 00:21:23.00 ID:V33wQ8XG0
( ´_ゝ`)「姉者、……弟者は?」

∬;´_ゝ`)「……え?」

( ´_ゝ`)「さっきまでここにいたのにな……姉者が来た時にはもういなかったのか?」

俺の問い掛けに姉者は答えなかった。それどころか、青ざめた顔をして俺を見ている。
何故そんな顔で俺を見るのか、俺には理解出来ずにいた。
ぼうっとしたまま姉者を見ていると、姉者が俺の両肩を掴んで前後に俺を揺らした。

∬;´_ゝ`)「兄者しっかりして。何でまたそんな事を……」

( ´_ゝ`)「何故だ。俺は至って正常だ。
       それより弟者はどこへ行ったのだろうな。トイレにしては長い間行ってるんじゃないか?」

∬;´_ゝ`)「兄者!!」

悲痛という表現がぴったりな姉者の声が部屋に響く。震える姉者の唇から言いたい事が何となく察せた。
けれど、俺はそんな事聞きたくもない。想像だってしたくない。
耳を塞ぎたい衝動に駆られるも、泣きそうな目をしている姉者から視線を逸らせなかった。

∬;´_ゝ`)「兄者、いい加減現実に目を向けなさい。弟者はもうここには――……」

(  _ゝ )「嘘だ」

27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/09(土) 00:22:57.56 ID:V33wQ8XG0
喉から絞り出した声は意外にも冷静だった。
もっと激しく否定するのかと思ってたものだから、自分で言ったくせに勝手に驚いていた。
姉者の目が見開かれる。その目の色は悲しみに満ちていた。
何故そんな顔をさせてしまったのか、俺にはわからなかった。

(  _ゝ )「弟者はここにいるんだ。さっきまで俺の隣にいたんだ。
       それにあの時約束したんだ、ずっと弟者と一緒にいるって、約束したんだ。」

茜色の情景と共に弟者の笑顔が浮かぶ。
嘘つきな俺と捻くれ者の弟者が唯一互いを信じて交わした約束は、今も俺の中で色濃く残っていた。
俺達はずっと一緒にいる。その約束が俺を動かしていた。

引き止める姉者の手を払って部屋から出て行くと、廊下には父者達が立っていた。
不安そうな顔で俺を見る妹者。姉者と同じ悲しみを俺に向ける父者。仁王立ちで構える母者。
俺はそんな父者達を一瞥して何も言わずに階段を降りると、後ろから俺の名を呼ぶ父者の声を聞いて歩む足を止めた。

 彡⌒ミ
( ´_ゝ`)「……外なんかに出て何をするんだ」

( ´_ゝ`)「弟者を探してくる」

 @#_、_@ 
 (  ノ`)「待ちなさい兄者! こんな遅くからどこに行くつもりなんだい!」

( ´_ゝ`)「心配しないでくれ。弟者を見つけたらすぐに帰るから」

その言葉を合図に急いで玄関へと走り出し、つっかけを履いて外に出ると真夏特有の空気が俺を包み込んだ。
背後では俺を呼び止める母者達の声が聞こえたけれど
俺は振り向かずにそのまま暗い夜の町へと飛び出した。

28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/09(土) 00:23:48.56 ID:V33wQ8XG0
流石に丑三つ時を過ぎた町には、俺以外歩いている人はいなかった。
電球が切れかかりそうな街頭の下を足早に進みながら
弟者がいそうな場所を頭の中で繰り返し思い浮かべていた。

初めてのお使いで二人で行った商店街。
母者に怒られた時いつも二人で逃げに行った陸橋の下。
ぬこが大好きだった俺達がよく二人で見に来たぬこの溜まり場。

弟者との思い出を辿りながら歩いていたけれど、どこにも弟者の姿はなかった。
普段引き籠もりなんてやってるからすぐに体力がなくなってしまい
休憩がてらに近くにあった公園のブランコに腰を掛けた。

( ´_ゝ`)「……星きれ―だな」

空を見上げれば満天の星が俺を見下ろしている。
あんなにも沢山あると、一つか二つ位空から落ちてくるんじゃないか。そう思う程星は夜空に敷き詰められていた。
公園には時計がないから今が一体何時なのかわからない。けれど、外に出てから大分時間は経過しているだろう。

29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/09(土) 00:24:33.53 ID:V33wQ8XG0
ブランコの錆びた音を鳴らしながら小さく前後に揺れていると、突然目の前が暗くなった。
両目を覆うのは温かい手。こんな時間に不審者が子どもみたいな真似事をするはずもない。
さして驚く事もなく、俺は何も言わず相手の出方を待つ事にした。

「だ―れだ」

聞き慣れた声に俺は自然を笑みを浮かべた。
すぐに答えを言ってしまうのもどうかと思ったが、今他に思い付くような人物もおらず
暫く唸るように考えたフリをした後、先程までの暗く暗い気持ちを忘れるような声を後ろの人物に向けた。

( ⊃_ゝ⊂)「家出少年弟者くん」

(´<_` )「正解だが家出少年は余計だ」

そう言いながらすぐに俺の視界を覆っていた手を離した弟者は
俺の隣のブランコに腰掛けて、いつもと何ら変わらないその姿を見せてくれた。

( ´_ゝ`)「しかしお前はまたどこへ行ってたんだ。起きたらいなくてビックリしたぞ」

(´<_` )「スマン。……ちょっと外の空気が吸いたかったんだ」

( ´_ゝ`)「どんだけ酸素不足なんだ。
 そろそろ帰るぞ。早く帰らないと母者の怒りを食らう事になるからな」

(´<_` )「兄者」

早々に家に帰るつもりで立ち上がろうとすると、不意に弟者が俺を呼び止めた。
隣の弟者に目を向けてみると、どこか悲しそうな表情をして俺を見ていた。
姉者達と同じ色をした悲しみを向けられても、相変わらず俺にはその理由がわからずにいた。

30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/09(土) 00:25:57.02 ID:V33wQ8XG0
理由はわからないが、弟者が悲しいなら励まさなければ。
そう思った俺はブランコに座り直して、出来るだけ明るく努める事にした。

( ´_ゝ`)「何かあったのか?」

(´<_` )「……少し、何て言えないくらいにな」

( ´_ゝ`)「ほう。それは重大な事だな。……もしかして今日の伊藤の件か?
 もしそうならあんまり気にするな。伊藤は自由奔放な女だから
 また誘えば今度はOKが貰えるだろう」

(´<_` )「いや、今その件はいい」

( ´_ゝ`)「違うのか? じゃあアレか
 この間最強の男になるべく妹者の部屋におちんちんびろびろ―んで入っていって
 妹者を泣かせてしまった事についての話か」

(´<_` )「いや……つ―か何してんだよアンタ」

( ´_ゝ`)「それも違うか……なら数年前弟者のプリンを勝手に食べてしまったヤツか?
 正直スマンカッタと思ってるが反省も後悔もしてないんだ。
 明日にでもお詫びにコーヒーゼリーを買ってやるからそれで勘弁してくれ」

(´<_` )「兄者」

ベラベラとしょうもない事を話す俺の口を止めたのは、生暖かい真夏の空気に反した冷たい弟者の声だった。
普段なら罵倒やら拳やらが来るはずなのに、こうも大人しくされたら困ってしまう。
思わず黙り込んでしまうと、何か決意を固めたような表情で俺の方に顔向けた。

31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/09(土) 00:27:14.14 ID:V33wQ8XG0
(´<_` )「兄者。本当はもうわかっているんだろう?」

( ´_ゝ`)「何の事だか俺にはサッパリわからん」

(´<_` )「そうやって白を切ろうとしても、意味がない事もわかってるのだろう?」

( ´_ゝ`)「知らん。俺は何も知らない」

(´<_` )「……そうか」

弟者はそれだけを言うと立ち上がり、首をこちらに向けて上から見下ろした。
俺を見るどこか寂しそうな表情に、嫌な予感が過ぎる。
必死にこの場の雰囲気を変えようと、取ってつけたような笑顔をして駄々を捏ねた。

(´<_` )「兄者良く聞けよ」

( ´_ゝ`)「い―や―だ、聞きたくない」

(´<_` )「ふざけるな。これは真面目な話だ」

( ´_ゝ`)「だったら尚更だ。聞きたくない」

(´<_` )「……そういう所は昔から変わらないな。
いいか、兄者。本当の俺はもうここにはいないんだ。本当の俺はあの時……」

(  _ゝ )「聞きたくないっ!」

33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/09(土) 00:27:42.44 ID:V33wQ8XG0
視界を閉ざし、音を遮る。
けれど脳裏に映る赤い惨劇からは逃れられなくて、
ぐったりと横たわる血に塗れた弟者。赤黒い血が弟者の身体から流れ出てゆく姿が闇に浮かぶ。

その幻影に俺の感情は恐怖に満ちてしまい
下唇を噛み締めて幻影が消えることを強く願う為に、念仏を唱えるように心の中で呟いた。
弟者は生きている。ここにいる。あの弟者は偽者で今ここにいる弟者が本物なんだ、と。

砂利を蹴るような弟者の足音を聞いて現実に引き戻された俺はちょうど斜め前に立つ弟者の後姿に目を向けた。
俺の意識が正常になったことを確認したのか、弟者はよく通るハッキリとした声を出して俺に語りかける。

(´<_` )「……兄者、覚えてるか? 俺が戻って来た日の事」

(  _ゝ )「当然だ」

34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/09(土) 00:28:29.01 ID:V33wQ8XG0
その日の事は今でも忘れられない。
弟者がいなくなって一週間経った日の夜、母者達が黒い服を来て忙しくしている中
俺は部屋から一度も出ないまま、弟者がいなくなった事実を否定し続けていた。

その日も今日と同じ位満天の星達が空を瞬いていて
流れ星でも落ちて来て弟者が帰って来るように願いたいな、なんて事を考えていた。
窓枠に肘を付けて空を眺めていると、不意に背後から気配がした。

母者が心配して来たのだろう。そう思い、そのまま振り向かずに空を見ていると懐かしい声が俺の名を呼んだ。
その声はずっと待ち望んでいた声で、ずっと聞きたかった声で。
慌てて振り返ると、弟者はいつもと変わらない姿で俺の前で笑っていた。

(´<_` )「ただいま、兄者」

日常が帰って来た。そう思った俺はとても嬉しくて、一週間振りに俺は笑う事が出来た。
弟者が帰って来たことをみんなが信じなくても、俺だけが知っていればそれでよかった。
いつかみんなが信じると思ってたからだ。

36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/09(土) 00:29:16.69 ID:V33wQ8XG0
天を仰ぐ弟者は俺の方を振り向かなかった。
暫くすると身体を伸ばし、昔を懐かしむような声で話し始める。

(´<_` )「俺はあの時、とても嬉しかったよ。兄者が俺と会う事を望んでいてくれて。
     そうじゃなければ今ここにいないからな」

言いながら振り向いた弟者の顔は笑っていた。
子どもみたいな無邪気な笑顔をして言うもんだから、あの日の事を思い出して苦しくなる。
震える右手を左手で静止して、重い息を飲み込むとゆっくりと口を開いた。

(  _ゝ )「だったら、なんで」

そこまでしか言えず先の言葉が上手く出てこない。
俺を見る弟者の表情が困ったような笑みに変わってゆく。

(  _ゝ )「俺だって弟者とまた会えて嬉しかった。
      また今までみたいに二人で楽しくやっていけるって思ってた。
      ずっと続くって今でも思ってる。だから弟者、そんな事言わないでずっと一緒に……」

足元に視線を向けたまま呟いた言葉は弟者まで届いているだろうか。
前方からやってくる足音に気づかないフリをしていると弟者の手が俺の頭を撫でた。
優しいその手は俺が良く知っているそれで、掻き乱された心が少しずつ冷静を取り戻していく。

37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/09(土) 00:29:51.85 ID:V33wQ8XG0
(´<_` )「……もういい」

顔を見ていないから弟者が今どんな表情をしているのかはわからないが
声だけで判断する分にはとても苦しそうな様子が伺えた。

(´<_` )「兄者、もう無理しなくていいんだ。もう……自分を押し込めて俺の分まで生きなくていい」

(  _ゝ )「俺がそうしたいのだから構わないだろう」

(´<_` )「まあな。決めるのは俺ではなくて兄者なのだから。
     では逆に聞こうか。何故兄者は俺の分まで生きようとするのだ?」

何故だと?
そんなの愚問だ。俺は弟者の分まで生きなければならない理由があるからだ。
あの時目の前で起きた惨劇を目の当たりにしながら弟者を見捨てて生きれるわけが無かった。

その理由の一つに、弟者と最後に交わした約束があった。それを守り通す為に今まで生きていたのだ。
けれど、本当はそれだけではないのだ。あの惨劇が起きてしまった一番の理由は俺にあるからだ。
大通り。道路を横切る人。目標を外したボール。車に飛ばされる弟者。

(  _ゝ )「……俺が……」

40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/09(土) 00:32:49.31 ID:V33wQ8XG0
本当は全てわかってた。弟者が死んでしまったことも、俺が弟者を殺してしまったことも。
けれど、弟者のいない現実と殺してしまった事実を見たくなくて、本当の弟者を見捨ててしまったんだ。
夢の中の弟者の言う通りだ。俺はどうしようもない嘘つきで、最悪の人間だったのだ。

歯が上手く噛み合わずに音を立てている。
全てを認めて本当の事を言えばスッキリするだろうか。
だが、この十数年間築いてしまった弱い俺が、厳しい現実に目を向けることを許してはくれなかった。

( ;_ゝ;)「おれ……が、弟者を……」

(´<_` )「……スマン。言わなくてもいい」

気のせいだろうか、俺の頭を撫でる弟者の手の温もりがなくなった気がする。
もう一度消え入りそうな声でスマンと呟いた弟者に
俺はただ首だけを振り、濡れていく地面をじっと見ていた。

( ;_ゝ;)「俺のせいで弟者は死んでしまったんだ。
      あの時俺がボールを別の方へなげてしまったから、死んでしまったんだ。
      だから俺が弟者の分まで生きなければいけないんだ」

(´<_` )「兄者のせいなんかじゃないさ」

( ;_ゝ;)「みんなそう言うんだ。俺のせいなんかじゃないって。
      だからこそ余計に苦しいんだ。本当は俺のせいなのに、違うって」

(´<_` )「兄者は悪くない。それに兄者が悪いと言うなら
      ちゃんと車も見ないで道路に飛び出した俺も、飲酒運転でひき逃げした例の車の奴らも悪いさ」

42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/09(土) 00:33:45.91 ID:V33wQ8XG0
弟者は喉に何かを詰まらせたような声を出すと、落ち着いた物の言い方をした。

(´<_` )「俺だって出来れば兄者とずっといたい。馬鹿みたいにずっと笑っていたい。
      けど、そんな理由で兄者が俺のそばにいるのを見るのは耐えられないんだ」

不意に弟者の両手が俺の頬を抓る。
抓られた顔を無理矢理上げられて、数分振りに弟者の顔を見た。
視線の先には、泣きそうな顔しながら笑う弟者がそこにいた。

(´<_` )「もう俺の分まで生きる必要はない。兄者は兄者なんだから」

弟者はそれだけを言うと空を見上げて鼻を啜る。
そして再び俺の顔を見ると、今度は笑いを堪え切れずにに噴き出しているのだ。
それはお前、泣いている人間に対して失礼だろう。

(´<_,` )「すっげぇ不細工」

( ;_ゝ;)うるさい馬鹿野郎。笑うんじゃねぇ」

さっきまでの真剣な空気はどこへ行ったのか、俺達を包む空気がほんの少し柔らかくなった。
弟者が俺の頬を左右に伸ばすもんだから痛くてまた涙が出た。
藍色の空に浮かぶ星空が消えていく様子を眺めていると
弟者が何かを思いついたらしく、俺の前に小指を立てて見せた。

44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/09(土) 00:34:12.10 ID:V33wQ8XG0
(´<_` )「兄者、指切りをしないか?」

( ´_ゝ`)「は?」

(´<_` )「ゆ・び・き・り。昔よくやってただろう?」

( ´_ゝ`)「ああ……しかし何でまた今やらねばならんのだ」

(´<_` )「何でもいいだろう。ほら、指出せや」

( ´_ゝ`)「何だか本当に指切られそうで怖いな」

(´<_` )「ね―よ」

差し出した小指を絡ませると弟者はニヤリと笑って思い切り繋いだ腕を上下に振った。
いい歳した大人がこんな事して恥ずかしい奴と思ったが
そんな恥ずかしい奴の兄である自分も恥ずかしく思って、笑ってしまった。

(´<_` )「ゆっびきりげ―んま―ん嘘ついたら針千本の―ます!
      兄者は兄者らしくなる!」

( ´_ゝ`)「勝手に俺の約束すんじゃねぇよ」

(´<_` )「まぁいいじゃないか。
      あとは……俺達はずっと一緒にいる!――……心の中でずっと一緒にいる!」

弟者がその言葉を発すると同時に寂しい風が俺の横を通り過ぎた。
いつもならここで俺が指切った!と言うはずなんだが何故か喉から言葉が出てこない。
今その言葉を口にしたら日常が終わってしまう。そんな気がするんだ。

45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/09(土) 00:34:42.67 ID:V33wQ8XG0
(´<_` )「どうした? 早く切らないとずっと兄者と小指で繋がってしまうではないか気持ち悪い」

( ´_ゝ`)「ああ……」

急かす弟者に曖昧な返事をすると俺は息を飲み込んだ。
優しい目をして俺を見る弟者に頷いてみせると弟者と絡めた指を強く結ぶ。

( ´_ゝ`)「指切った」

その言葉を紡いだ瞬間、冷たい風が吹いた。
目の前の弟者が風にさらわれるように消えていく。
足が、手が、身体が、弟者の存在そのものを消すようになくなっていく。

その様子をただ茫然と見ていると
弟者は柔らかく笑って、俺に何かを告げて消えてしまった。

いつの間にか辺りは明るくなっていて
俺以外誰もいなくなった公園は寂しい空気が漂っていた。
先程まで弟者がそこにいた場所には弟者の瞳のような優しい光が降り注いでいる。

( ´_ゝ`)「弟者」

口に出して弟者の名前を呼んでみるが、返事はない。
時々するように心の中でも呼んでみるが、やはり返事はない。

46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/09(土) 00:35:05.41 ID:V33wQ8XG0
( ;_ゝ;)「……馬鹿野郎」

そういえば弟者が死んでしまってから泣くのは初めてかもしれない。
あの頃は弟者が死んでしまったことを心のどこかで認めたくなくて
あの夜そうしたように弟者が帰ってくる時を待っていたのかもしれない。

本当は、弟者はもうここにいないのに。

暖かい朝日が振り注ぐ公園で俺は一人大声をあげて泣いた。
格好悪いとか、いい歳にもなってとか、そんなこと気にならないくらい泣いた。
泣けなかった数年分を埋める勢いで泣いた。

泣いて泣いて泣きつかれた頃には既に太陽は昇りきっていて
涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔を腕で乱暴に拭いだ俺は
ある一つの決意を胸に、歩き出した。

48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/09(土) 00:35:38.53 ID:V33wQ8XG0
斜に浮かぶ太陽を横目に数時間振りに家路に就く。
冷静になって考えてみると、半ば無理矢理外に飛び出してしまった。
姉者も母者も妹者も父者も、みんな俺を心配してくれたのに俺はその気持ちを無下にしたのだ。

( ´_ゝ`)。о(俺は最低だな……)

どうやって家族に顔を合わせようか。そんな事を考えている内に家に着いてしまった。
朝とはいえ今日は休日だ。もしかしたらまだ寝ている可能性もあるだろう。
ドアノブを引くと鍵は空いていた。出来るだけ音を立てずに家の中に入っていく。

家はとても静かで、誰かが起きている気配は全くしなかった。
久し振りに声を上げて泣いてしまい、喉が渇いていた俺は
部屋に戻るより先にリビングへ水を飲みに向かった。

 @#_、_@
 (  ノ`)「お帰り、兄者」


(  _ゝ )  ゜ ゜


先程俺は"家はとても静かで、誰かが起きている気配は全くしなかった"と言ったが、今この瞬間撤回しようと思う。
正しくは、"母者だけが気配を立てずに起きていた"が正解だ。
いきなりのラスボスの出現に直立不動になっていたが、いつもと違いどこか大人しい。
ああ、心配かけてしまったんだなと思い謝ろうとすると、突然母者のアッパーが俺の顔に命中した。

いとも簡単に吹き飛ばされてしまった俺はそこいらにあった家具に激突し
最近買ったハイビジョンTVの下敷きになってしまった。
このテレビ最新型地デジなのに。勿体ない。

49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/09(土) 00:36:46.88 ID:V33wQ8XG0
@#_、_@
 (  ノ`)「この馬鹿息子! 今までどこに行ってたんだい!」

(;#)_ゝ`)「いや…スマンかった」

背後からただならぬオーラを出して近寄る母者に俺は無意識に身体中をガタガタ震わせた。
いつものお仕置メニューならこのあとキツいコブラツイストを受けた後
ジャイアントスイングでフィニッシュを飾るはずだ。
嫌な汗を額から流すと強く目を閉じ心の中で神に祈りを捧げた。

だが、やって来るはずの鉄拳もコブラツイストも一向に俺に襲いかかって来ない。
恐る恐る瞼を開くと、視線の先には母者の背中があった。
母者の背中からは普段感じている恐ろしいオーラは全く発しておらず、その様に俺は腰を抜かしてしまった。

@#_、_@
 (  ノ`)「弟者は見つかったのかい?」

( #)_ゝ`)「……いや、いなかった」

@#_、_@
 (  ノ`)「そうかい」

背中を向けたまま母者は一息吐くと誰に言う訳でもなくポツリと言葉を零す。
その声が微かに震えていたのは間違いなく気のせいではないだろう。

50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/09(土) 00:37:27.93 ID:V33wQ8XG0
@#_、_@
 (  ノ`)「……双子は腹から産まれた母親以上に大切な存在って前に聞いた事がある。
     片割れが死んでしまった場合、残された方の悲しみは大きな物だそうだ。
     だからあたしは心配だった。死んだ弟者と同じ位、残されたアンタの事も」

母者は振り返らず、目頭を摘むような動作をした。
こんな母者を見たのは弟者が死んで以来だ。母者に掛ける言葉も見つからず、母者から視線を逸らすと
ソファ―に座ったまま寄り添って寝ている姉者と妹者が視界に入った。

更に、先程母者がいたリビングには父者が俯せになって寝ている姿を見つけた。
あんな気違いみたいな飛び出し方をしたのに、それでもこの家族は俺を待っていてくれた。
胸に熱いものが込み上げてくるのを感じながら、痛む身体を起こして背中を向けたままの母者に向き直る。

( #)_ゝ`)「母者、今までスマンかった。
      母者だけじゃない。父者も、姉者や妹者も、みんなスマンかった」

@#_、_@
 (  ノ`)「……」

( #)_ゝ`)「でももう俺は大丈夫だ」

@#_、_@
 (  ノ`)「本当かい?」

( #)_ゝ`)「ああ。だから母者、俺は弟者に会いにいかないと。
      本当の弟者に会わないといけないんだ」

51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/09(土) 00:38:07.89 ID:V33wQ8XG0
母者の肩が振れるのがこちらからでもよくわかる。
そりゃそうだろう。今の今まで弟者の死を認めなかった俺が現実に向き合うんだからな。
振り向いた母者は俺の予想に反して普段通りの表情をしていた。やはり母は強し。弱い所は決して見せないんだな。

@#_、_@
 (  ノ`)「Det墓地に弟者はいるよ。場所はわかるだろう?」

( #)_ゝ`)「ああ、ありがとう」

痛む身体を引きずりながら部屋へ向かおうとしたが
大切な事を思い出した俺は、母者の前に立つとニヤニヤ笑いながら両手を揉み砕いた。

(*#)_ゝ`)「あと母者、ついでと言っては何だが小遣いをほんの少し……」

@#_、_@  
 (  ノ`)「だ が 断 る」

(;#)_ゝ`)「いや、だって手ぶらで墓参りに行くのもおかしいだろう。
      せめて花くらいは買っていってやりたいんだ。
      だから小遣いをほんの少し……」

@#_、_@ 
 (  ノ`)「ファミコンの為に使う金があって弟者の為に使う金はないのかい?」

(;#)_ゝ`)「Oh,YES.行ってきます」

52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/09(土) 00:38:49.34 ID:V33wQ8XG0
母者の背後から再びただならぬオーラを感じた俺はそそくさと部屋に戻って
なけなしの樋口一葉チャンを貯金箱から取り出した。
正直弟者の為に来月発売のエロゲを我慢するのは中々惜しいが、今日は特別だ。

( ´_ゝ`)「花だけ買うのも何だし、何か他にも買っていってやるか」

一レス前の怪我を無理矢理完治させ、寝巻から軽装に着替えた俺は
リビングで寝てしまった母者と父者達にタオルケットを掛けてやり
行って来ますと声を掛けて再び外へ出た。

午前中とはいえ夏の太陽は手強い。家から出て五分も立たずに俺の身体から水分を奪っていく。
暑い暑いと文句を言いながら近所にある花屋に足を運ばせると
花屋の入口の方に見慣れた姿の女が花に水をやっているのが見えた。

(;´_ゝ`)「あれは……」

('、`*川「あら、兄者じゃない」

一瞬何故伊藤が花屋の花に水を上げているのかと疑問に思ったが
ついこの間、誰かが伊藤の親は花屋を営んでいるという事を言っていた気がする。

(;´_ゝ`)「そうか、伊藤ん家花屋だったな」

('、`*川「そういえば兄者には言ってなかったわね。ウチに何か用?」

(;´_ゝ`)「花を買いに来たんだが……その前に中に入れてくれ。暑くて溶けてしまいそうだ」

呆れたような顔をする伊藤の後に続いて店内に入ると人工的な涼しい風邪が俺を包み込んだ。
エコだの温暖化だの環境問題が叫ばれているけど、暑いものは暑いんだ。
レジ袋は使わないようにするから今だけはクーラーに当たる事を見逃して欲しい。

53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/09(土) 00:39:22.78 ID:V33wQ8XG0
('、`*川「それで? 花なんて誰にあげるのよ」

ガラス張りのケースの中に佇む花々を眺めていると
実に不思議そうな顔をした伊藤がエプロンを着て俺の隣に立っていた。

( ´_ゝ`)「……大切な約束をした奴がいるんだ。そいつへの餞に送ってやろうと思って」

('、`*川「大切な約束ねぇ……ならこれなんかどう?」

そう言うと伊藤はショーケースの中から薄紫色の花を取り出した。
綺麗に開かれた花びらは上から見ると星のような形にも見える。
見た事の無い花に物珍しい目で眺めていると
伊藤がバケツに入っている薄紫色の花を一本一本丁寧に取りながら説明をする。

('、`*川「この花はイヌサフランっていうの」

( ´_ゝ`)「犬サフラン?」

('、`*川「まぁ確かに犬サフランともいうけど」

(;´_ゝ`)「マジかよ! 何の為に俺ボケたの!?」

残念な事に俺の会心の一発ギャグはボケ殺しされた上にスルーされてしまった。
伊藤と話すと毎回のようにボケ殺しをされるか、スルーされてしまうから寂しくてしょうがない。
そんな俺の寂しさなんか少しも察さない伊藤は、俺に構わず花の説明を続けた。

54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/09(土) 00:39:48.49 ID:V33wQ8XG0
('、`*川「この花の花言葉は永続・楽しい思い出っていうの。
     兄者がした約束がどんな物か、約束の相手が人がどんな人かは知らないけど
     私はこの花が良いと思うわ」

( ´_ゝ`)「……伊藤」

('、`*川「まぁ有毒植物なんだけどね」

(;´_ゝ`)「ちょwwんな有毒花薦めるなwwww」

('、`*川「馬鹿ね、ちゃんと一般向けに改良されたヤツに決まってるじゃない。
     このイヌサフランは観賞用になってるヤツなの。コルチカムとも言うわ。
     ただ、過去に犬がこの花の球根を食べて死んだ例もあるから気をつけてね」

( ´_ゝ`)「俺が間違って食べるとでも?」

('、`*川「だって食べそうだもの」

( ´_ゝ`)「お前って本当失礼なヤツだよな」

('、`*川「その言葉、そっくりそのまま返すわ。ところで花はこれで構わないかしら?」

自分から聞いて来たくせに、俺の返事を待たずにすでに花の包装を始めているあたり何て店員だ。
まぁ、どちらにしても俺は花の事など一切わからないから逆に決めてくれて有り難いのだが。
それにしても流石花屋の娘。テキパキと綺麗に花を飾り付けていく。

('、`*川「そういえば兄者、昨日のアレは一体何だったの?」

70 名前:さる怖い[] 投稿日:2008/08/09(土) 01:03:00.33 ID:V33wQ8XG0
伊藤の手際の良さに見とれていると
弟者でもないのに、不意に投げ掛けられた言葉に一瞬硬直してしまった。

(;´_ゝ`)「……何の事だ?」

('、`*川「何か変な格好してチケット渡してたヤツ。
     何の罰ゲームやらされてたのよ、気持ち悪い」

( ´_ゝ`)「……」

そういえば伊藤はこんな女だった。
ロマンチックとか、女の子っぽいというよりサバサバしている感じだからな。
しかしそれにしても言い方があるだろう。弟者が聞いてたら一生立ち直れないぞ。

('、`*川「……兄者ってさ、時々変だよね。
     普通にみんなとバカやってるかと思ったら、全然出来ないスポーツをこなせたり
     私とこうして普通に話してるかと思ったら、昨日みたいに挙動不振に変な事するし」

花の茎や無駄な葉っぱをハサミで器用に切り取っていきながら
俺の方を見る事なく伊藤は花に目を向けたまま話を続ける。

73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/09(土) 01:04:53.46 ID:V33wQ8XG0
('、`*川「みんなは何でも出来る兄者が好きって言ってたけど
     私はバカみたいな兄者が好きだな。気楽に話せるし、一緒にいて楽しいし」

( ´_ゝ`)「……伊藤、お前」

('、`*川「あ、勘違いしないでね。あくまで友達としてなんだから」

( *´_ゝ`)「ツンデレハァハァハァ……これが伊藤じゃなければもっといいのに」

('、`#川「死ね変態」

言いながら伊藤は俺の弁慶の泣き所に思い切り蹴りを食らわせた。
あまりの痛さに声にならない悲鳴を上げてその場にしゃがみ込むと
頭上からガサガサとビニールが擦れる音が聞こえてきた。

('、`*川「相変わらず軟弱なんだから。
     ほら、花出来たわよ。母さん達に比べたらあんまり上手くないけど」

涙目の景色に見えた大きな花は際立った紫色の美しさを放っていて
あの伊藤が作ったとは思えないくらい綺麗に出来た花束だった。

( ´_ゝ`)「綺麗じゃん。ありがとうな」

('、`*川「いやに素直ね。気持ち悪いわ。
     お金は半額でいいわよ。普段なら包装までやらせてもらえない半人前なんだし。
     兄者の大切な人への気持ちも込めてね」

76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/09(土) 01:07:05.85 ID:V33wQ8XG0
( ´_ゝ`)「いいのか? 親父さんに怒られたりしないか?」

('、`*川「いいわよ。ただ、この事は内緒ね」

内緒、と言う伊藤の表情は悪戯をしでかした子どもみたいな笑顔をみせて
その顔に何故か弟者の面影が浮かんで来た。

('、`*川「ど―したのよ、ぼ―っとしちゃって。早くお金頂戴」

( ´_ゝ`)「ん? あ、ああ」

ひらひらと差し出された伊藤の掌に、財布から樋口一葉タンを取り出し渡すと
一葉タンは数枚の野口英夫といくらかの小銭になって帰ってきた。

( ´_ゝ`)「伊藤」

('、`*川「何よ」

( ´_ゝ`)「ありがとう」

78 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/09(土) 01:08:12.36 ID:V33wQ8XG0
複数の意味を込めた言葉は伊藤に全て伝わっただろうか。
伊藤は微笑みながら花束を俺に渡すと突然俺の背中を押して外に突き飛ばす。
勢いよく飛ばされた俺はそのままアスファルトに転がってしまった。
幸いにも花に被害は無く、何とか守り通すことが出来た。

('、`*川「私にお礼言ってる暇があったらさっさと行きなさいよ」

両腰に両手を当てて偉そうに言う伊藤に一つ舌を出してやると
外に置いてあった箒片手に殴りかかろうとするものだから慌ててその場から立ち去った。
全く乱暴な女だ。弟者はあんな女のどこに惹かれたのだろうか。

弟者の趣味を疑いながら、花の他に何を送ってやろうかと考えていると
角を曲がった先にある小さな商店を見つけた。
その商店を見た俺はある一つのアイディアが浮かんできて、意気揚々とした足取りで商店の中に入っていった。

79 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/09(土) 01:09:40.32 ID:V33wQ8XG0
( *´_ゝ`)「墓参りイヤッホホホホィ!」

近くの酒屋で購入した日本酒を弟者の墓にぶちまける俺は傍から見れば完全な変人だろう。
身分証明書は忘れてしまったが、運のいいことに年齢確認をせずにすんだ。
こういう時無駄に背が高くて良かったと思う。
何にしても、良い子も悪い子も酒を買うときは出来るだけ身分証明書を持つようにな。

その後も、容赦なく弟者の墓に次々と買って来た酒をかけながら
チューハイを片手にグビグビと飲む。

( *´_ゝ`)「旨いだろ? これが大人の味ってヤツなんだぜ
      まぁお前には一生わからない味なんだがな」

通ぶって言うが、正直俺はあまり酒なんか飲まない。リア充でもないのだから。
時々母者に隠れて一人チビチビ飲む程度だが久々の弟者の前なんだ
少し位似非リア充アピールしたってバチは当たらないだろう。

そうしている内にはしゃぎすぎて疲れてしまい弟者の墓に寄り掛かって一休みをする事にした。
足元には空っぽになった瓶が散乱していて、後々の片付けの事を考えるとほんの少し憂鬱になった。

80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/08/09(土) 01:10:54.71 ID:V33wQ8XG0
( ´_ゝ`)「ふぅ……」

見上げた空はやけに青々としていて、その青さに眩しくてまともに直視出来なかった。
風に流されてゆく雲を見ながら、弟者の最期の姿を思い出す。

その姿は何年も瞼の裏に焼き付けられた真っ赤な惨劇ではなく
砂の様に消えて行く弟者の穏やかな笑みと小さな声だった。




(´<_` )『ありがとう、兄者』




( ´_ゝ`)「ありがとうはこっちのセリフだ、馬鹿野郎」

もたれかかっている弟者の墓を軽く小突いてやると
身体を伸ばして一つ大きな欠伸をした。

81 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/09(土) 01:11:19.79 ID:V33wQ8XG0
最初は弟者と交わした約束を果たせるか不安だった。
俺らしく生きるなんて、言われたからって自覚して直せるようなものでもない。
それ以前に、今まで隣にいた弟者が本当の意味でいなくなった現実で今まで通りに生きれるかも心配だった。

だけど、今は何とかなるだろうと思っている。
それは多分家族や親友が俺を支えてくれたり、俺という存在を認めてくれているからだと思う。
伊藤の店で買った花を丁寧に花瓶に移しながら、花を見つめる伊藤の横顔を思い出した。

( ´_ゝ`)「バカみたいな俺が好き……か。
羨ましいだろ? 伊藤はお前はタイプじゃないんだとさ」

もしここに弟者がいたら、きっと顔真っ赤にさせて
有り得ねぇ畜生! なんて悔しそうに言うだろうな。
そんな事考えていたら笑いが込み上げて来て、弟者の墓に向かって指を差して笑ってやった。

どれくらいの間弟者の墓にいたのだろうか。
延々と弟者の墓石に向かって遠足の話や、ブーン達の話、伊藤の話など
色々話をしている内に太陽は西に向かって歩き出していた。

( ´_ゝ`)「そんじゃ、今日はもう帰るな。
また時間あったら彼女でも連れて会いに来るよ。
彼女っつても空気嫁だけどな」

重い腰を持ち上げると、散らばった瓶を拾ってビニール袋にまとめた。
折角外に出たのだから、これからどうしようか。
そんな事を考えながら弟者の墓から歩き出した時だった。

82 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/09(土) 01:13:55.93 ID:V33wQ8XG0
ふと、優しい風が俺の横を通り過ぎていった。
風に誘われるように後ろを振り向くと、先程までいた弟者の墓が見える。
そこには、もう見えないハズの弟者が墓石に座って手を振っていた。


ヾ(´<_` )


( ´_ゝ`)「……弟者」

いつか見た無邪気な笑みを浮かべる弟者に俺の視界はまたもや滲み出して来た。
慌てて目元を拭うと弟者に向かって指を差して少し涙混じりの声で高らかに叫んでやった。

( ´_ゝ`)「っ……見とけよ! お前との約束必ず守ってやるからな!
絶対絶対守ってみせるからな!」

自分の墓石の上に座っている弟者は俺の声に一瞬驚いたような顔をしたが
すぐにその表情を自信に満ちた笑みへと変えて
破ったら針千本だからな、と言わんばかりに小指を見せ付けていた。

83 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/09(土) 01:14:54.95 ID:V33wQ8XG0
昔から俺は一人で眠る事が出来ない子どもだった。
物心ついた頃から俺の隣には常に弟者がいて、俺達が離れる事なんて想像も出来なかった。
だけど、今日からはその不可能だった想像が現実となる。

もしかしたら、弟者のいない日々に慣れないかもしれない。
もしかしたら、今までと同じようにあの夢にうなされるかもしれない。
もしかしたら、また弟者と会う事を望んでしまうかもしれない。

けれど、沢山の不安を大丈夫に変換してくれたのは弟者との最後の約束のお陰だと思う。
それまで苦悩の根源となっていた約束は、今では俺という存在を支える大切な物になっていた。
確証なんか何一つないけれど、勝手にそう思っている。

( *´_ゝ`)「そうと決まれば早速萌え画像ゲットしに帰るぞ!
ウヘヘwwwみなwwwぎってwwwきwwwwたwww」

酒の酔いが回って来たのかやたらテンションが上がった俺は
酒瓶が入った袋を振り回しながらスキップして弟者の墓を後にする。
背後から弟者の呆れたような、けれどどこか楽しそうな溜息が聞こえた気がした。


何故だか知らないけれど、そんな気がした。




85 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/09(土) 01:18:54.24 ID:V33wQ8XG0
以上で終わりです
支援してくれた人、見てくれた人ありがとう

途中猿にかかってあせったけど復帰できてよかった…

この話は『ふたご前線』という児童書をベースにして書きました。
読んだことある人は色々突っ込みたいことあると思うけど許してくれ

感想・批評・突っ込みとかあったら遠慮なくお願いします

87 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/09(土) 01:20:03.37 ID:Czl/D/Zf0
お疲れさま
涙が出たよ

90 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/08/09(土) 01:21:03.53 ID:OzhZNjWg0

普通によかったぜ

89 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/08/09(土) 01:20:15.88 ID:YsFDdqALO
すごく良かった

88 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/08/09(土) 01:20:04.81 ID:zVegea170
1乙!
今度その本読んでみますよー