276:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/25(金) 20:38:16.70 ID:eQ2jf1JfP
どうもこんばんは。保守ありがとう。

時代は大正初期を何となく想定して書いてます。
だからきっと色々と矛盾は有るはず。「本郷に港はねぇよ!」とか。

あと、漢字遣いなのですが、正直言って適当です。
一応辞書は引いてるけれど、勝手に当て字した物も多いです。
そういえば「仕合わせ」は昔も突っ込まれた気がするのだけれど、
個人的にこっちの方が好きだから使っているだけと言うだけなので。

少し書き貯めしてから開始します。少々お待ちを。


前スレ
猫「吾が輩は猫である」

289:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/25(金) 21:38:21.88 ID:YeWuBtoz0
期待

278:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/25(金) 20:57:56.45 ID:eQ2jf1JfP
――夜、男自室

ガラッ。

猫「……ほおう」
男「なんですか出し抜けに」

猫「いやいや。如何なる事やらと案じていたのだが、
 如何やら上手く行った様ではないか」

男「……果たして、あれで良かったのでしょうか?」
猫「どう謂う事だ?」

男「いえ。女さんは頭では御両親を許したいとお考えなのだと、そう思いました。
 故にあの様な謂い方をしたのですが、
 何だか解った様な口を利いてしまったのではないか、と……」

猫「やれやれ。お主は心配性だな」
男「人の心に触れると謂うのは、とても難しい事です故」

猫「っくく。謂うようになったではないか」

280:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/25(金) 21:01:59.55 ID:eQ2jf1JfP
男「時に猫さん」
猫「なんだ?」

男「お借りした本を返そうと思ったのですが、
 男友さんの姿が見えないのです。
 どちらにいらっしゃるか御存知では無いでしょうか?」

猫「嗚呼。其れなら放って置くと良い。
 本は部屋に戻しておけば、それでよかろう」
男「どう謂う事です?」

猫「お主も事情を察する事くらい出来るだろう?
 詰まりはそう謂うことだ」
男「はぁ」

猫「まぁ、お主は今一つ人間臭い処が無い故解らぬやも知れぬがな」
男「まさか猫にこの様な事を謂われる日が来るとは」

281:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/25(金) 21:08:53.06 ID:eQ2jf1JfP
猫「して、男よ」
男「はい」

猫「“あの娘が両親を赦したいと考えている”。そう言ったな」
男「私の所感故、誤って居るのやも知れませんが……」

猫「まぁ、其れならば、お主がそう確信を持てた時で良い」
男「何か助言を頂けるのですか?」

猫「ふむ。“願いを叶える”等と嘯いておいて、之まで碌に仕事をしなかった物でな」
男「はぁ」

猫「然しまぁ、吾輩の出る幕が無いと謂うのならば、
 其れは其れで結構な話しなのだがな。
 “猫の手を借りて惚れた女を助けた”等、少々格好が付かないでは無いか」
男「それは、まぁ」

猫「然し、まぁ憶えて置くと良い」
男「何をです?」

猫「“姿灯”。この街で昔語られた事のある話だ。
 季節も良かったようだな。実にお主は運が良い」
男「……スガタビ?」

283:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/25(金) 21:13:49.82 ID:eQ2jf1JfP
――屋敷、庭

カパーンッ!

男「ふぅ。薪はこんな物で良いですかね」

ザッ。

男「……ん?」
女「あら。随分と殊勝な事ね」
男「ああ、女さん」

女「そう謂えば、男友くんを見ないわね」
男「それならば、独りにして置くのが良いそうです」
女「?」
男「あぁ、いえ。何でもありません」

女「一緒に入る?」
男「へ?」

女「御風呂よ」
男「……え?」
女「冗談よ。何を鼻の下を伸ばしているのよ、助兵衛」

285:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/25(金) 21:19:59.37 ID:eQ2jf1JfP
女「あぁ、そう謂えば」
男「はぁ。まだ何か?」

女「……何か不満でも?」
男「いえ。滅相も御座いません」

女「今直ぐ行けばまだ商店が開いて居る時間だろうから、
 氷菓子を買ってきて頂戴」
男「へ?」

女「御風呂は焚き続けなくていいわ。
 こんなに暑いのだもの、どうせ長湯はしないから」
男「はぁ」

女「折角なら、自転車に乗って行けば良いじゃない」
男「ですから、私は未だ自転車に乗れません故」

女「良い練習の機会じゃあ無い」
男「夜道で練習は危ないでしょう!?」

女「はぁ。一々面倒臭い人ね。
 “お駄賃を上げるから、御使いをして来なさい”。そう謂っているのよ」

287:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/25(金) 21:29:30.26 ID:eQ2jf1JfP
男「はぁ。結局徒歩で商店まで来てしまいましたが。
 ――まぁ、女さんも元気になったようで良かったですが」

がらららっ。

男「ええと、御免下さい」

「はい! 少々お待ちを〜っ!」

男「おや。この声は……」

女友「ああ、男さんじゃあないか!」
男「今晩和、女友さん。
 知りませんでした、此処が女友さんの伯父様の商店だったのですね」

女友「ああ、そうなんだ。それで、何か買いに来てくれたのか?」
男「ええ、我が儘な淑女にお使いを命じられまして」

女友「我が儘な……? 女さんの事か?」
男「其れは私の口からは謂えません」

288:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/25(金) 21:37:14.13 ID:eQ2jf1JfP
男「そう謂えば女友さん」
女友「ん? なんだ?」

男「男友さんを見掛けませんでしたか?」
女友「男友? 夕刻にライオンへ牛乳の配達に行った時に見たけれど、
 それきりだな。男友がどうかしたのか?」

男「先刻から姿を見掛けません故、少々心配になりまして。
 まぁ、消息筋に拠れば放っておくのが良いそうなのですが」
女友「消息筋?」
男「ああ、いえ。何でもありません」

女友「そうだなぁ……嗚呼、あそこかも知れない」
男「あそこ?」

女友「アイツは此方に来てから何か考え事があると、神田明神に行くんだ。
 そう謂えばライオンで見掛けたアイツは、
 何処と無く元気が無かったかも知れないな」
男「はぁ」

女友「そうだ、男さん。
 わたしももう店を閉めるから、良かったら一緒に行ってみないか?」

290:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/25(金) 21:43:31.89 ID:eQ2jf1JfP
――神田明神、境内

りーん……りーん……。

男「然し、良かったのでしょうか」
女友「何がだ?」

男「いえ。恐らく放っておけというのは、
 “独りで考え事をしたい時も有る”という意味だと思うのですが」
 女友「男さんは先刻から可笑しな事を謂う。
 だって、其れは男友本人から直接謂われたのでは無いのだろう?」

男「其れはそうなのですが」

女友「……この桜の木は、春になると淡い桃色の花が美しく盛んに咲くんだ」
男「ほう」

女友「ほら。わたしと男友は北の雪国で育ったから、冬が辛く長かったんだ。
 だから、わたしは毎年桜が咲くのを心待ちにしていたんだ。
 きっと男友にとってもそうだったのだろう。
 桜はわたし達にとって、特別な花なんだよ」

292:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/25(金) 21:45:03.58 ID:eQ2jf1JfP
男「おや。あの石段に腰掛けて居るのは……」
女友「やれやれ。矢張り此処に居たか」

男「……」
女友「ん? どうした男さん。行かないのか?」
男「嗚呼……いえ。女友さん」
女友「なんだろう?」

男「この氷菓子を差し上げますから、男友さんとお二人で召上って下さい」
女友「いいのか? と謂うより、男さんは行かないのか?」

男「我が儘な淑女には、今回は我慢して頂きます。
 其れにこのまま家に持って帰っても溶けてしまいそうですし。
 それに何だか今は、此処に――御二人の特別な場所に、
 私は居るべきでは無いと思うのですよ」

女友「そうか、……うん、解った。
 何だか済まないな。わたしが誘ったばかりに」

男「いえ、いいんです。帰って自転車の練習でもすることにします」

293:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/25(金) 21:47:25.71 ID:eQ2jf1JfP
書き貯めも切れたしお風呂入って展開考えてくる。1時間で戻ります。

296:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/25(金) 22:23:02.66 ID:di/+GrM40
凄い良い雰囲気だなぁ。
これは面白い。





302:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/25(金) 23:08:55.07 ID:eQ2jf1JfP
――境内、宵

りーん……りーん……。

女友「よう」
男友「アンタ……どうして此処に?」

女友「男さんが商店にいらっしゃってな。先程まで一緒だったのだが、
 お家に戻られた。どうやら気を遣ってくれたようだ」
男友「……そう」

女友「あぁ、其れから、之だ」
男友「……其れは?」

女友「氷菓子だ。男さんは帰って皆で食べる心算だったのだろう。
 三つあるけれど、折角だし全部食べてしまおう」
男友「ふふっ、男ちゃんらしいわね」

女友「嗚呼、良かった。漸く笑ってくれたな」にこり

303:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/25(金) 23:14:32.42 ID:eQ2jf1JfP
男友「……ん。美味しいわ」
女友「なんたってウチの商品だからな!」
男友「ええ、……そうね」

女友「何だ。“無い胸を張るな”等と軽口を叩かないのだな」
男友「まあ。まさかアタシに神前でそんな卑猥な言葉を謂わせるつもり?」
女友「っく。あははっ。漸く普段の調子に戻って来たじゃあ無いか」

男友「アンタが強引だからよ」
女友「わたしは馬鹿だからな。力業しか使えないのだ」
男友「……全く」くすりっ

ふわり。

女友「ん。夜風が気持ち良いな」
男友「――悪かったわね」
女友「ん? 何がだ?」

男友「男ちゃんにもそうだけれど。アンタにも心配掛けたみたいで」
女友「ああ、そんな事か。わたしは少しも気にしては居ないよ。
 それに、きっと男さんだって同じだろうさ」

306:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/25(金) 23:23:42.70 ID:eQ2jf1JfP
女友「なぁ、男友」
男友「なぁに?」

女友「今から謂うのはわたしの独語だから、別に返事はしてくれなくて良い。
 只訊いてくれれば、それでいいから」
男友「……?」

女友「昔々、雪の深い国に生まれた女の子が居りました」
男友「……」

女友「その女の子はその国でも稀代の美少女と呼ばれ――」
男友「異議アリッ!」
女友「何だよ。人様の独語の邪魔をするなよ」
男友「……アンタねぇ」

女友「山間の小さな町で、その女の子はすくすくと育ちました」
男友「……」

女友「女の子の隣の御宅には、少々――いや。大分変わった男の子が済んで居りました」
男友「まぁ、悔しいけれど其れは認めるわ」

女友「男の子はかなり変わって居た故、周りの子供からは良くからかわれて居ました。
 遣り返せば良いのに。男の子は泣き虫なので、
 仕方無く女の子は男の子を助けてあげていました」
男友「アンタ、“仕方無く”ってねぇ」

308:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/25(金) 23:34:45.63 ID:eQ2jf1JfP
女友「まぁ、女の子と男の子は色々と在って大きくなり、
 男の子はなにやら作家になる為に東京に行くと謂い出しました」
男友「――」

女友「女の子は何だかとても不安な気持ちになります。
 自分でもよく解らない、もやもやとした気持ちです。
 或いは其れは永く自分が守って来た子の独り立ちを
 むずかる親の気持ちかとも考えましたが、愈々答えは出ませんでした。
 
 ――そして、見送りの日です。

 北国に漸く咲いた桜の花びらが舞う中、
 小さくなる男の子の背中を見ながら女の子は決心をしました」

女友「このまま別れてはいけない。この気持ちがはっきりとするまで、
 わたしは男友の傍にいよう、と」

男友「アンタ……」

女友「まぁ、何だ。白か黒か解らない物って、
 苦手なんだよわたしは――では無くて。その女の子は」

310:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/25(金) 23:44:09.59 ID:hIidKtMyO
女友かわいいな・・・

311:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/25(金) 23:45:44.24 ID:eQ2jf1JfP
女友「まぁ、つまりだ。
 その女の子は特に勉学に励むとか、そう謂う理由では無くて、
 ごく控え目に見ても極めて不純な理由で両親に頼み込んで、
 東京の女学校に行く事になったんだ。笑っちゃうだろう?」

男友「……全く。女友らしいわ」

女友「まぁ、そう謂うなよ。死活問題だったんだよ、その女の子にとっては。
 ええっと、其れで何が謂いたかったんだっけ……あぁ。
 要は、こんな適当な理由で女学校に通っている人間も居るんだから、
 お前も余り考え込むなと、そう謂いたかったんだ!」

男友「……っく」
女友「……男友?」

男友「っくくく。あはははっ。嫌だもぅ、可笑しいったらありゃしないわ!
 そんな風に人を元気付ける女は、この世広しと謂えども、アンタだけよねぇ。
 っくく。傑作だわぁ」

女友「なっ――! お前っ、人が折角っ!
 ……ぷくっ。あはははっ!」

313:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/25(金) 23:57:05.52 ID:eQ2jf1JfP
男友「はぁ、はぁ。お腹が痛いわよ、もう」
女友「……そんなに笑わなくたって良いだろう」

男友「――アタシねぇ。大学辞めようかと思って」
女友「うん、そうか」
男友「あら、驚かないのね」

女友「まぁな。何年一緒に居ると思っているんだ」
男友「……嗚呼、そうだったわね。アンタとアタシは腐れ縁と謂う奴だったわ」
女友「それで、さ。男友っ」

男友「何よ。もう笑わせないでよぅ?」
女友「そのっ……。わたしが東京に来た理由なのだけれど」

男友「?」

女友「漸く解ったんだ。如何やら之が――“愛しい”という気持ちらしい」
男友「……え?」

*

男友「ねぇ、女友?」
女友「なんだ?」

男友「来年の桜も――綺麗に咲くと良いわねぇ」
女友「ああ! そうだなっ!」ぱっ

316:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/26(土) 00:04:36.21 ID:Song16K/P
――其の頃。

女「何か謂い残した事は?」
男「……ありません」

女「そう。
 あら――そんなに怯えなくても大丈夫よ。弐、参日もすれば普通に歩けるようになるわ」
男「お、女さん……?
 その御手に持った鈍器を下ろしては頂けないのでしょうか……?」

女「知って居るでしょう? 須く罪は罰を以って赦されるべきものなのよ」
男「ちょ……まっ……!!」

女「残念だわ。自転車の練習も暫くお預けね」
男「――っ!! 嗚呼あぁぁぁぁっ!!」

*

猫「……やれやれ。だから放って置けと謂ったであろうに」

318:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/26(土) 00:13:23.42 ID:xB0+TlcAP
>>316
IDすげぇ
そして女さん怖ぇ


319:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/26(土) 00:15:26.12 ID:c/eH26tp0
nice song.

317:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/26(土) 00:11:42.59 ID:Song16K/P
区切りなので30分書き貯めて来ます。
読んでくれてる人、ありがとう。

無駄にラブコメっぽくなったのは反省している。





322:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/26(土) 00:40:18.44 ID:Song16K/P
――翌日、屋敷、台所

男「ふぁ〜あ。嗚呼、男友さんお早いですね」
男友「あら、男ちゃん。お早う! 清々しい朝ね。
 まるで小鳥のさえずりが聞こえてくるようだわ」

ガタリ。

男友「あら、御嬢様。ご機嫌麗しう――男ちゃん、何をそんなに怯えて居るの?」
男「いえ。其の様な事は、ありませんよ……?」

女「あら。塵――いえ、男くん。怪我の具合は如何かしら?」
男「御陰様で絶不調です」
女「何か謂った?」
男「……いえ、何でもありません」

男友「あらぁ。随分と仲睦まじい御様子で♪」

男「断固として謂わせて頂きますが、決して其の様な――あ」
男友「なによぅ、男ちゃん。急に固まっちゃっ――え?」

女「?」

男「せっ、先生っ。何時日本に戻られたのですかっ!?」
女「……え」

女父「はろう、えぶりばでい。元気にしていたかな?」

324:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/26(土) 00:56:26.79 ID:Song16K/P
男友「御久し振りね、先生! もう数カ月も英吉利にいらっしゃったの?」
女父「イエス、そうなのだが。少し暇が出来てね。
 大学に用が在った物だから、少しの間だけまた日本に戻ってきたのだよ」

男「先生……」
女父「之は男くん。
 君は此方に来たばかりだらう? もう此方の生活には慣れたかい」

男「ええ……皆さんに良くして頂いて居ますので……」
女父「そうか。それは頗るぐっどだね」

女「……」
女父「そして、女。元気だったかな? ん?」

男(女さん……)

女「お父様、御久し振りです。
 では、わたしは庭球の練習があるので、之でっ」

パタンッ。

女父「ははは。女も随分と忙しくしているようだね! 何よりだ!」
男「――少し私も失礼致しますっ」

パタンッ。

女父「んー。こいつぁ困ったねぇ」

325:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/26(土) 01:06:37.17 ID:Song16K/P
――街中

男「――居た。女さんっ」
女「……」

男「女さん……」
女「やはり壱年近く会って居ないと、衝撃も大きいわね。それに急だったから……。
 でも大丈夫、大丈夫だから……」

男「――大丈夫です。直ぐに慣れます。
 それに先生だって悪いお人じゃあ無い。少々個性的なだけで」
女「そんなの解って居るわよッ!」
男「……っ」

女「……御免なさい、動揺してしまっていて。つい……」
男「ええ。大丈夫です。解って居ますから」

女「……御免なさい」
男「少し何処かに座りましょう。顔色が真っ青ですよ、女さん」

327:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/26(土) 01:15:55.69 ID:Song16K/P
――喫茶「ライオン」

からりんっ。

旦那「済まないね。まだ準備中――やぁ、誰かと思えば男くんじゃあ無いか」
男「マスター。開店前の時間に申し訳御座いませんが、
 今暫く休ませて頂くことは出来ませんでしょうか?」

旦那「ああ。構わないよ。それよりも女くんは大丈夫なのかい?
 随分と参ってしまって居るように見えるが」
女「御免なさい……大丈夫ですので」

旦那「解った、何か温かい飲み物を出そう。
おっと、店は散らかっているが勘弁してくれよ」

男「マスター、有難う御座います」

旦那「いいんだ。
 さて、男くんは珈琲で良いとして、女くんは何が良いかな。紅茶にしようか」
男「いえ、お気遣い無く」

旦那「気にしないでくれ。余計な御節介は僕の趣味の様な物だからね」

329:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/26(土) 01:23:02.65 ID:TASMmtITO
マスターが良い男過ぎる

330:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/26(土) 01:24:02.59 ID:o3P1uON90
喫茶店のマスターって気の利いた人多いよな

337:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/26(土) 02:22:02.39 ID:Song16K/P
――街中、街路樹の下のベンチ

男「……」
猫「随分と困っている様だな」
男「猫さん……」

猫「して? 娘は今は?」
男「まだライオンにいらっしゃいます。
 初めよりは大分落ち着いて居られる様に見えますが」

猫「なぁ男よ」
男「……はい」

猫「吾輩は、満更お主の謂った事も間違いではなかったと思うぞ?」
男「……そうでしょうか」

猫「“頭では両親を赦したいと考えている”。そう謂ったな。
 其れは頭以外の部分――まぁ其れを心と呼ぶとしよう。
 其処では受け入れる準備が整って居なかったと謂う事だらうさ」
男「私は、どうすれば良いのでしょうか」

猫「謂っておくが、満月は明日だぞ」
男「まぁ、姿灯とやらは最後の切り札でしょう。
 その前に為さなければならない事が、有る筈です」

猫「っくく。随分と男らしい顔をするように為ったでは無いか」
男「そうだとするならだ、其れは恐らく猫さん――貴方の御陰ですよ」

341:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/26(土) 02:32:53.50 ID:Song16K/P
猫「吾輩は聖人では無い。
 吾輩は吾輩の利益になる故、お主に手を貸して居るに過ぎん。
 つまり。何かが変わったとするのならば、
 男、それはお主自身の力だと謂う事だらうさ」

男「猫さん……」
猫「さぁ、娘の処に戻ってやれ。今少しの時間はお主の支えが必要だらうさ」

男「其の前に、教えて頂けませんか?」
猫「ほう。中々如何して食い下がるでは無いか」

男「猫さんが御自身に立てた契り――。一体其れは何なのですか?」
猫「――そうだな。上手く行けばお主の願いが叶うのも、
 もう今日明日中と謂うところであろう。
 お主にならば、或いは話しても良いやも知れぬが……」

男「……猫さん」

猫「そうだな。解った」

344:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/26(土) 02:37:57.21 ID:Song16K/P
猫「人捜しをしている――何時ぞやそんな事を話したな」
男「えぇ、確かに其の様な話しをしました」

猫「吾輩は……吾輩の主人――旦那様を捜しているのだ。
 そうだな、もう何年も。何拾年も……」

男「猫さんの……御主人を……?」

猫「嗚呼。思えばもう、
 吾輩はあの温もりをも久しく忘れてしまっていたな……」
*

猫「……もう良いだらう。娘の処へ行ってやれ」
男「然し、猫さん……。そんなっ。其れではっ――」

猫「男っ! 今、お主が真に案ずるべき相手は誰そっ!」
男「……っ」

猫「行け。娘の為にっ。
 ――そして其れは、この吾輩の願いでも有ると謂う事を、どうか。
 どうか……解ってくれ……」

345:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/26(土) 02:44:18.42 ID:Song16K/P
――喫茶「ライオン」

からりんっ。

男「……女さん」
女「もう大丈夫、大分落ち着いたわ」
男「其れは良かったです」

女「でも、少しだけ。少しだけで良いから、手を繋いで貰っても良いかしら……?」
男「――勿論」

きゅっ。

女「くすっ。存外男らしい手をしているのね」
男「女さんの指は思っていた通り、少し力を入れてしまえば、
 折れて仕舞いそうです」
女「なによそれ」

男「儚げで美しい、そう謂ったのですよ」

346:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/26(土) 02:54:12.74 ID:Song16K/P
女「ねぇ、男くん」
男「はい」

女「――わたしね、考えて居たのだけれど」
男「何をですか?」

女「もうどれ位お父様と目を合わせて居なかったろう、と。
 思えば、逃げて居たのは、何時も私の方だったのかも知れない」
男「……」

女「だから、一度全てを話してみようと思うわ。
 在りの侭の……わたしの本音で」
男「大丈夫ですか……?」

女「其れは、少しは怖いわ。
 わたしの言葉は、或いはもうこの家を粉々に打ち砕いてしまうやも知れない。
 けれど――」

男「……?」

女「――そうね、この先を謂うのは全てが終わってからにしましょう」くすりっ

348:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/26(土) 03:10:37.67 ID:Song16K/P
ごめん。眠くてちょっと碌な文を書けないので、
この辺りで撤退します。つくづく遅筆で申し訳無い。

明日の帰りは日付変更あたりになってしまいそうなのだけれど、
残っていたら明日には終えられる予定です。

では、御休みなさい……。

349:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/26(土) 03:12:25.19 ID:vO4OcGb10
待つさ!
いくらでも待つさ!

乙!





427:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/26(土) 23:49:25.14 ID:Song16K/P
こんばんわ。帰宅しました。
今から夜ご飯+お風呂+書き貯め少々してきて良いかな。

長い間保守ホントにありがとう。
頑張ってスピード上げるよ。

べっ、別に本気出せば5分に1レスくらいの速度で書けるんだからねっ。

431:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/26(土) 23:52:06.60 ID:o3P1uON90
キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
お帰りなさい!
あ…べ…べつにあんたのために保守してたわけじゃないんだからね///


440:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/27(日) 00:52:49.56 ID:V0dQfDOgP
――屋敷、居間

男友「――先生? 先生なら大学に用があると謂って、出掛けて仕舞われたわよ?
 帰りは夕刻になると謂って居たわ」

男「なっ」
女「……全く。相変わらず飄々と肩透かしの上手い事ね」

男「仕方が在りませんね。夕刻に先生が戻られてから、ですね」
女「まぁ。わたしとしても、気持ちの整理が出来て良いのだけれど。
 然し、何処と無く勢いを削がれたわね」

男友「……」

男「夕刻まで為す事が無くなってしまいましたね。
 男友さん、大学に講義でも受けに行きましょうか」
女「あら。随分と真面目なのね」

男「大学に入ってまだ日が浅いです故。
 サボタージュの癖は余り着けたくないのですよ。
 男友さん、大学に行きませんか?」
男友「あぁ、そう謂えば未だ謂って居なかったわね。
 アタシね。大学を辞める事にしたのよ」

男「……え?」

443:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/27(日) 01:02:04.37 ID:V0dQfDOgP
男友「もっと他に出来る事が有るのでは無いかと思ってねぇ。
 ああ、まだ暫くは東京に居るけれどね」

男「吹っ切れた様な表情ですね」
女「さぁ。自暴自棄に為って居るのでは無いかしら」

男友「でも大学には少し用があるから、男ちゃんが行くと謂うならば
 一緒に行きましょう」
男「はぁ。女さんは如何しますか?」

女「そうね。わたしは今日は家に居ようかしら。
 もうすっかり日も高く為ってしまった事だし、
 今から女学校に行くのも、何だか億劫だわ」

男「そうですか。では夕刻にライオンで待ち合わせをしませんか」
女「あちらのマスターに御迷惑では無いかしら」

男友「いいのよぅ。マスターはそんな器量の小さい男じゃあ無いわ」
男「木賃と料金をお支払いすれば良いでしょう。
 それにそう長居をする訳でも有りませんし」

女「解ったわ。では夕刻にライオンで」

444:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/27(日) 01:06:12.10 ID:V0dQfDOgP
――街中、大学への路

男友「今日も暑いわねぇ」
男「ええ。もう初夏ですからね」

男友「津軽はこんなに暑くなかったわよぅ」
男「男友さんは、何時かは故郷に帰られるのですか?」

男友「アタシ? ん〜。どうかしらねぇ。
 先の事は何も考えて居ないけれど、どうやらアタシにも
見付けないといけない物が在るって、漸く解ったから。

 ……だから、帰るとすれば其れが終わってからかしらね。
 空っぽの両腕で帰るなんて、そんなの見っとも無いじゃあ無い」

男「見付けないといけない物……とは?」

男友「そうねぇ。――誤魔化してはいけない気持ち、とでも謂うのかしら。
 はっきりとさせないと気が済まない様な。
 逃げてばかりのアタシだったけれど、此処だけは逃げちゃあいけない。
 
 ――之だけは決して譲れない。
 そんな気持ちにさせてくれる物……かしらね」

445:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/27(日) 01:15:22.66 ID:V0dQfDOgP
男「決して、譲れない物……」
男友「厭ぁねぇ。何だかとても恥ずかしい事を謂った様な気分だわ」

男友「それで?」
男「はあ? 何がですか?」

男友「男ちゃんにも在るんでしょう? 
 大切な、守らなければいけない物が。見付かったのでしょう?」
男「男友さん……」

男友「貴方は良く気も利くし、見えて居る物も広い。
 何より、優しい人だから。だから屹度、大丈夫。
 アタシが保障する。太鼓判を押すわ」
男「……大丈夫でしょうか」

男友「アタシは今一つ事情が掴めないけれど、
 ずっとあの家にいたんだもの、大体の事は解るわ。貴方なら大丈夫。
 だって、あんなに愉しそうな御嬢様は、始めてみるもの」

男「……」

男友「――大丈夫だよ、お前が一緒なら。だから、頑張れ」
男「……はい」

450:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/27(日) 01:26:06.98 ID:V0dQfDOgP
――夕刻、大学、庭

男(さて、ライオンに向かわなければ)

男(……そう謂えば猫さんは如何して居るのでしょうか。
 今朝、あの長椅子でお話をしてから姿を見て居ませんが)

――吾輩は……吾輩の主人――旦那様を捜しているのだ。
 そうだな、もう何年も。何拾年も……。

男(……)

――この街に居るのなら、居場所も解る筈なのだが。
 或いはっ……。或いは、既に御存命では無いのやも知れぬが。

男(猫さん……)

ザッ。

女父「やぁやぁ、之は奇遇だ。男くんじゃあ無いか。
 感心だねぇ、確りと勉学に励んでいるのか。
 加えて謂うとすれば、そんなに眉間に皺を寄せて如何したんだい」

男「……先生」

453:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/27(日) 01:35:02.76 ID:V0dQfDOgP
女父「然しまぁ。驚いたねぇ」
男「何がですか?」

女父「好き合って居るのだらう? 女と」
男「なっ!?」

女父「謂って置くが。残念乍、君は言い逃れは出来ない。
 何故なら自分は昔から其の手の事に関する勘は外した事が無いからな」
男「少なくとも、女さんの方は私をそうは想って居らっしゃら無いですよ」

女父「おや。之は困ったな。君は随分と自分に自信が無い様だ」
男(あれだけ暴言を吐かれれば其の様な勘違いも出来ますまいて)

女父「……思えば、自分は女に
 父親らしい事を何一つして遣る事は出来無かったな」
男「先生……?」
女父「……さて、家に帰ろうか」

男「……先生」
女父「何だね? 男くん」

男「少々――喫茶に寄って行きませんか?」

454:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/27(日) 01:49:53.81 ID:V0dQfDOgP
――喫茶「ライオン」

からりんっ。

旦那「いらっしゃ――おや、之は随分と珍しい御客様だね」

男「済みません、何度もお邪魔してしまって」
旦那「いいさ、丁度暇をしていた処なんだ。ほら、座ってくれ。
 それで、御注文は?」

男「私は珈琲を」

女父「自分は苺パフエを頂こう」
男「え?」
女父「……何だね?」

男「――いえ。何でも」

455:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/27(日) 01:52:54.81 ID:V0dQfDOgP
旦那「お待たせ」

カチャリ。

男「有難う御座います」
女父「ほう。之は美味そうだ」

旦那「時に男くん」
男「はい?」

旦那「煙草が切れて仕舞って、買いに行かなければならないから、
 少しだけ留守番を頼んでも良いかい?」
男「はぁ」

旦那「なに。店の看板は“閉店”にして置くから心配はしないでくれ。
 じゃあ、宜しく頼むよ」

458:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/27(日) 02:05:06.66 ID:V0dQfDOgP
女父「ふむ、此処が男くんの行き付けの喫茶なのかね」
男「私の……と謂う選りは男友さんの、でしょうか」

女父「成程。道理で大学に行かなくなる訳だな」
男「はい?」

女父「此の様な居心地の良い喫茶があっては、屹度自分も大学なぞ行かなくなる」
男「御尤も」

*

女父「……」
男「……」

女父「もう、どれ位昔の事かな。銀座のパアラアに行ったんだよ」
男「……はぁ?」

女父「女と、女の母親とでね――あぁ。あれの母親の事は?」
男「伺って居ます」

女父「何度か行ったのだが、女は必ず苺パフエを頼むのだ。
 そして必ず半分を残した」
男「食べ切れ無かったのですか?」

女父「いいや。自分と、あれの母親に分けてくれて居たんだよ。
 今と為っては随分昔の話しだがな。
 お陰で自分は苦手だった苺を食べられるようになった」

460:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/27(日) 02:15:58.16 ID:V0dQfDOgP
女父「――良く笑う子だったな。
 よもや自分が家庭なぞ持つとは思って居なかったが、
 之は之は中々どうして悪くないものだと思っていた」

男「先生……」

女父「然し、何時からだったろうな。
 自分は学問に追われ、段々と其れに没頭して行った。
 文字の海に溺れ、家庭の事なぞ顧みる事が出来なくなった」
男「……」

女父「何もかもが気に食わなくてな。あれは元々母親の方に懐いていたのだが、
 少しずつ、其れが強まった。
 まぁ、今思えば当然な事よな。自分から女を見ようとしなかったのだから。
 然し当時は其れが気に食わず、家族に当たり散らした。

 ――女に手を上げた事も在ってな。
 未だ覚えて居る。あれは本当に怯えた目で自分を見たのだ」

461:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/27(日) 02:28:21.51 ID:V0dQfDOgP
女父「『家庭が気に食わない』――自分は益々学問に溺れた。
 書斎に籠り、本を読み漁った。
 今にして思えば其れは自分から泥沼に足を踏み入れて居ただけなのだらうな。
 
 ――今気付いた所でもう遅いのだが」

男「……先生」
女父「何だね」

男「如何して先生は其の言葉を女さんに謂って差し上げないのですか……?」
女父「その資格なぞ疾うに失ってしまったからだよ。
 先刻も謂ったらう? 自分は父親として何一つ女にしてやれなかったのだ」

男「……」

女父「周囲は自分を“気狂い”や“変人”と呼んだ。
 しかし自分は体裁なぞ如何でも良かった。
 知識は素直だった故な。文字の海に溺れれば溺れる程、知識は蓄えられた。
 異国の言葉も憶えた。
 己の傲慢に溺れて息が出来なくなって居るのにも気付かない儘な」

女父「そんな頃だったらうか――女の母親が家で死んだのは」
男「……っ」

463:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/27(日) 02:46:44.72 ID:V0dQfDOgP
女父「もはや自分を赦してはくれぬだらうな。女も、母親も。
 夫として、父親として及第にも遥か及ばぬ成績だつた。
 
 ……漸く其れに気が付いたのは火葬場で高く昇る煙を見た時だつた」

男「……」

女父「女の傍近くに居る事資格さえ無い。
 之以上あの家に居ては、自分は女さえも壊してしまう。
 ……いや。既に女の心を歪ませて仕舞つて居た事は承知して居るのだが。

 其れから以前より誘いが在った英吉利へと渡った。
 今更感じた焦燥と寂しさを埋める為に、妻を娶った。
 ……あれにも済まない事をしたな。
 
 自分は――逃げたのだ。英吉利と謂う遠く西の果てに」

女父「なあ、男くん」
男「……はい」

女父「女を仕合わせにして遣ってはくれぬだらうか。
 こんな自分が穿って仕舞った女の心の穴を――どうか埋めて遣ってくれ」

467:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/27(日) 02:58:44.39 ID:V0dQfDOgP
男「御断りします」
女父「なっ」

男「“自分には資格が無い”?
 何を謂って居るのですか。
 父親に資格なぞ必要なのですか?
 
 “自分は女から逃げた”?
 其も其も。そんな事を私に仰る事、其の事自体が“逃げ”では無いですか。
 何時まで逃げ続けるおつもりなのですか?」

女父「然し……」

男「良いですか? 私には譲れない物が在ります。
 先生に頼まれずとも、女さんを仕合わせにして見せます。
 良かったですね、その点では私と先生とで利害の一致を見ました。
 
 けれど、先生に勝手に舞台を降りられては不都合が在るのですよ。
 此の劇の終末には、女さんが先生を赦す必要があるのですから」

女父「然しっ。其れではあれの母親が自分を赦さないだらうっ」
男「はぁ。……之だから頭でっかちの頑固者は苦手なのですよ」

ガタリ。

女「はぁ。貴方達、黙って訊いて居れば、
 人が居ないと思って好き勝手放題に謂ってくれるじゃあ無いの」

468:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/27(日) 03:10:11.78 ID:V0dQfDOgP
男「おっ、女さん。居らしていたのですか……?」
女父「……」

女「さて、どちらから文句を謂おうかしらね。
じやあ、先ず、お父様」
女父「……っ」

女「粗方は男くんが謂ったみたいだけれど、
 わたしからも質問させて貰うわ。
 “父親の資格”って何よ? 

 其れとも何かしら?
 貴方は……貴方はわたしの――父親では無いとでも抜かすのかしら?」

女父「だから、自分は之以上お前の近くに居ては……」

女「あぁ、勉学ばかりしていたから、謝る事を忘れて仕舞っているのね。
 だって本には謝らなくても良いもの。
 
 ――いいわ。馬鹿な貴方にも解るように解り易く謂って上げる。
 “素直に謝れば、わたしは貴方を赦してあげるわ”。
 
 之でも解らないと謂うのならば、
 御医者様に御願いして頭を開いて貰う選り他に方法は無いわね」

470:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/27(日) 03:20:31.54 ID:V0dQfDOgP
女父「……」
女「其れと、もう一つ。
 
 ――御免なさい、お父様。
 わたしは貴方の事を何一つ理解しようとすらして居なかった。
 謝ります。御免なさい」

女父「……女」

女「だから、もう仲直りをしましょう。
 そうしたら、二人で一緒にお母様の御墓に御参りに行きましょう。
 ……わたし達は、お母様に謝らなければいけないわ」

女父「――済まなかった、女。どうか……自分を赦してくれ……」
女「良い大人が泣くんじゃあ無いわよ。
 泣きたいのは……わたしのっ。……方なのだから」

男(……全く。女さんだって泣いて居るじゃあないですか)

女「――其れから男くん」
男「はいっ!?」

女「貴方、人を“仕合わせにする”だなんて――
 ……何だか文句を謂う気も失せたわね。
 まぁ良いわ。又のお楽しみになさい」

男「っくく。其の様な御顔で仰られても」
女「〜っ!」

471:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/27(日) 03:27:31.14 ID:V0dQfDOgP
男「――時に先生」
女父「何だね」

男「水を差す様で気が引けるのですが、別件で御尋ねしたい事が在ります」
女父「謂ってみると良い」

男「実は、或る人を捜して居るのですが――」

*

女「……ねぇ、お父様」
女父「何だ、女?」
女「明日にでもお母様の御墓参りをしましょう」
女父「ああ……そうだな」

男「嗚呼。其の事についてなのですが、御二人」

女「?」
女父「何だね」

男「――御二人は、明日の宵は御暇でしょうか?」

472:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/27(日) 03:34:12.59 ID:V0dQfDOgP
――其の夜。男自室

ガラッ。

男「猫さんっ――いらっしゃらない。一体どちらへ……。
おろ。窓が開いて居ますね」

からららっ。

「ああ、男。帰ったのか」

男「猫さん? どちらにいらっしゃるのですか?」

「屋根の上だ。お主も昇って来るが良い。今宵は星が見物だぞ」

男「そう謂われましても私は猫さん程易々とは屋根になぞ昇れませぬ故」

「ええい。這い蹲って昇れば良かろう」

男「はぁ」

473:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/27(日) 03:41:38.42 ID:V0dQfDOgP
――屋敷、屋根

男「〜っ!」
猫「ほれ、もう少しぞ。頑張らぬか」

男「――っはぁ。全く猫さんは人遣いの荒い」
猫「っくく。まぁ良いでは無いか。見てみろ」
男「これは……」

猫「中々悪くない星空よな」
男「……ええ」

猫「風を読んで居ってな。良かったな、如何やら明日の宵も雲一つ無い様だ」
男「そうですか。其れは良かった」

猫「初夏の宵。良く晴れた空に満月が浮かんで居らぬといけない。
 中々に奇遇で無ければならぬとは思わぬか」
男「ええ。そうして少しずつ其の話しを知る者も少なくなって仕舞ったのでしょう」
猫「尤もだ」

474:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/27(日) 03:52:05.36 ID:V0dQfDOgP
りーん……りーん……。

猫「なぁ、男よ」
男「はい」

猫「こうしてお主と夜を越えるのは、或いは之が最後やも知れぬな」
男「……」

猫「っくく。何だ? 寂しいのか?」
男「……はい」
猫「む。正直に応えられては吾輩も返答に困るでは無いか」
男「……ぷくくっ」

猫「――壱百の人間の願いを叶えた暁には、袂を分つた御主人と再会出来る。
 今思えば、良くぞ此の様な面倒な言霊に契りを交わした物だ」
男「猫さん……」

猫「……或いは壱百人目がお主だつたのも、何かの縁なのやも知れぬな」
男「随分と有難くない縁も在ったものです」
猫「なんと」

男「冗談ですよ。――私は屹度、此の縁を一生忘れないでしょう」

476:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/27(日) 04:07:51.37 ID:V0dQfDOgP
男「しかし随分と美しい星空ですね」

猫「ふむ。そう謂えば、流星に願いを掛けようとした事も在ったな」
男「はぁ」

猫「只座って宵の空を眺めるのだ。
 星は滅多に流れぬ故、僅かも気を抜く事は出来ない」

男「して、願いは掛けられたのですか?」

猫「否。星と謂う物は随分とせっかちな奴でな。
 見付けた途端に消えて仕舞うのだ。
 もう少し空で遊んでも良かろう物に……」
男「ふむ」

猫「星は、あの様に急いで、何処へ行こうとして居るのだらうな。
 或いはその儚さ故に、こうも見る者の心を打つのやも知れぬが」
男「ええ、屹度そうです」

猫「吾輩も、もっと急げば良かったのだらうな。
 ゆるりとして居る内に、もう幾拾年の歳月が流れて仕舞った。
 
 ――早く逢いたいと謂うのに。
 吾輩は如何も一番大切な処で間違ってばかりな気がしてならないのだ」

478:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/27(日) 04:14:36.28 ID:V0dQfDOgP
やっと区切りまで来た。長めの書き貯め休憩して来る。

多分、これで終わる。

479:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/27(日) 04:18:47.45 ID:JR72UVol0
おっしゃおっしゃ眠気とんだぜ

480:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/27(日) 04:25:40.98 ID:LoTOmIAyO
ほしゅ




482:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/27(日) 04:47:53.48 ID:V0dQfDOgP
――男自室、夜半

猫「……」
男「……」

猫「――男よ。もう眠って仕舞ったか?」
男「……何ですか?」

猫「其のだな。……一つ、頼みたい事が在るのだが」
男「謂ってみて下さい」

猫「いや。その前に何としてでも断つて置きたい事があるのだがっ。
 良いか? 決して吾輩は不安だとか、そう謂う訳では無いのだぞっ。
 そう謂う訳では無くだなっ。何と謂うか……」

男「随分と面倒な人――否、面倒な猫ですねぇ」
猫「なっ、何だ其の物謂いはっ」

男「はいはい。申し訳御座いませんでした猫さま。
 して、猫さまの御頼みとは何でしょうか?
 私めに出来る事ならば、この微力尽くさせて頂きますよ?」

猫「む。何故そう意地悪をするのだ……」

484:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/27(日) 04:49:44.67 ID:V0dQfDOgP
男「そう機嫌を損ねないで下さい」
猫「お主が悪いのだからな……」

男「――何ですか? 猫さん」
猫「そ、其のだな。今宵だけは、同じ布団で眠らせて貰えないだろうか……?」

男「――お安い御用ですよ、猫さん」

*

猫「……明日は、屹度良き日になるよな?」
男「実は私は――猫さんに謂って置かなければいけない事が」
猫「……?」

男「いえ……何でもありません」
猫「何だ。変な奴だな」
男「――申し訳御座いません」

猫「……もう眠るよ」
男「……」

猫「――御休み、男」
男「御休みなさい――猫さん」

487:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/27(日) 04:55:29.34 ID:V0dQfDOgP
土下座をします。

勢いで“最後の書き貯め”とか言い、
少し書いてみたけど、最後のひと山はこの眠さで書けるシーンでは無かった。
きっと今書いても碌な物にならないから、
続きは明日ではダメだろうか……。

本当に見っとも無い。
明日はちゃんと17時に退勤カードを押すから……。

枕を濡らして眠ります。御休みなさい。土下座。

488:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/27(日) 04:56:03.86 ID:yWvuq9WM0
土下座したまま寝るなよ
風邪引くから


489:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/27(日) 04:59:32.87 ID:Qbmp8Cb5O
緩っくり御休み上がって下さい

498:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/27(日) 07:30:06.05 ID:1TMbJQg2O
マスター、保守のおかわりを頂けて?

517:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/27(日) 13:00:08.32 ID:NYx4l96S0
支援

517_1

>>1やみんなのイメージと違うかもしれないけど
楽しみにしてます


>>517 おお。ありがとう。雰囲気あって素敵だ!

519:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/27(日) 13:22:35.18 ID:1TMbJQg2O
>>517 雰囲気好き。俺も黄昏のイメージ。

521:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/27(日) 13:47:05.55 ID:IuxUx5OXO
>>517
gj





543:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/27(日) 20:13:19.99 ID:V0dQfDOgP
こんばんわ。帰宅しました。
保守どうもありがとう。
例によって夕食+お風呂+書き貯めをして来て良いでしょうか。

544:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/27(日) 20:13:46.24 ID:synM9U9p0
きたあああああああああああああ

551:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/27(日) 20:53:35.59 ID:XjOQGCgfO
お帰りなさい!
ゆっくりしてからでいいよ!

555:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/27(日) 21:07:06.30 ID:v14rn9yrO
いよいよだな

561:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/27(日) 21:44:14.19 ID:V0dQfDOgP
――翌日、男自室

女「……」
男「むにゃ……ぐぅ」

女「……」
男「……すぅ」

女「……」つんっ
男「む……んぅ」

女「……」つんつんっ
男「猫……さん……?」

女(……猫?)
男「……ぐぅ」

女「起きなさい、男くん」
男「むにゃ……」

女「男くん。今直ぐに起きないと、接吻するわよ?」
男「……すぅ」
女「――」

男「……む? 女さん?」
女「あら。お早う――と謂っても、もう日も随分と高いのだけれど」

562:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/27(日) 21:47:21.29 ID:V0dQfDOgP
男「ふぁ〜あ。昨晩は随分と夜更かしをしましたので」
女「そう」

男「然し女さん、何故私の部屋に?」
女「そうね。余りに部屋の中が静かだから、若しかしたら息絶えて居るのかと思って」
男「はぁ」

女「――と謂うのは冗談なのだけれど。
 男くん、貴方にお礼を謂おうと思ってね」
男「礼……?」

女「お父様と仲直り――は、まぁ此れからなのでしょうけれど。
 その切っ掛けを作ってくれたのは、男くん。貴方だから」

男「……む」
女「どうしたの? そんなに浮かない顔をして。
 普段より数段、うだつの上がらない顔に為って居るわよ」

男「……其れはどうも」

565:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/27(日) 21:55:34.95 ID:V0dQfDOgP
女「それで? 何故そんな死んだ魚の様な眼をして居るのかしら?」

男「いえ。……今思うと、私は何と謂う事を先生に謂って仕舞ったのでしょう。
 あの様な口を利いて、先生は屹度大層お怒りですよね。
 思い起こす事すら恐ろしいです……はぁ」
女「いいわ。一言一句、わたしが再現をしてあげる」
男「へっ?」

女「“何時まで逃げ続けるおつもりなのですか”」
男「うっ」
女「“はぁ。之だから頭でっかちの頑固者は苦手なのですよ”」
男「ううっ」
女「“私は実は幼い女児が好きなのです”」
男「勝手に捏造をしないで頂けますかッ!?」

女「――“私には譲れない物が在ります”」
男「……あ」

女「“先生に頼まれずとも女さんを仕合わせにして見せます”」
男「いえ。其れは、其のっ」

567:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/27(日) 22:02:21.80 ID:V0dQfDOgP
女「其れは其の?」

男「ええと、何と謂いますか……。
 あの時の私は些か興奮をして居りましてですね」
女「あら、そう」

男「其れに、まさか女さんがあの様な処に隠れて居らっしゃるとは露にも思わず」
女「ふうん」

男「大変勝手な事を謂いました。申し訳御座いませんでしたっ。
 ――おろ? 女さん?」
女「何よ」

男「怒って居らっしゃら無いのですか……?」
女「今回は特別に赦して上げる。
 但し。次からは木賃とわたしの同意を得てから、其の様な事は謂いなさい」
男「……はぁ」

女「さて、散歩に行くわよ。早く準備を済ませなさい」

569:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/27(日) 22:09:20.24 ID:V0dQfDOgP
――街中

女「随分と冴え無い顔をしているじゃあ無い。
 ひょっとして、男くんはわたしと散歩をするのが嫌なのかしら?」
男「申し訳在りませんが、私は生まれて此の方この様な顔なのですよ」

女「あら、そうなの。其れは随分と気の毒な話ね」
男「御慰め痛み入ります」

*

女「木々の緑も随分と深く為って来たわね」
男「そうですね。此れから本格的に暑くなります。
 ……と謂っても、既に茹だる様な暑さですが」

女「夏と謂えば、そうだったわ。
 今年の明神の祭りには、朝顔柄の藍染めの浴衣を着て行こうかしら」
男「……あ」

女「見たい?」
男「……ごくりっ」

女「あら。見たくは無いのね。残念だわ。
 非道いじゃあない。わたしに良く似合って居る、と謂ってくれたのに。
 あれは其の場限りの口三味線だったのかしら」
男「み、見たいですッ! 是非とも見せて下さい女さんの浴衣を召された御姿ッ!!」

女「あら。じやあ、精々首を長くして楽しみにして居なさい」
男「はぁ」

570:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/27(日) 22:16:29.43 ID:V0dQfDOgP
女友「おお、此れは奇遇だ! 男さんと女さんじゃあ無いか!」

男「おや、女友さん。店先で打ち水ですか、御苦労様です」
女友「ああ、男さん。今日も随分と暑いからなぁ」

女「ふうん。貴方達、何時の間に其の様に親しげに名を呼び合う仲に為ったのかしら?」

女友「ああ、そうだ。御二人とも、此処で少し待っていてくれ!」
男「はぁ」

女「……」
男「あの。女さん?」
女「何かしら?」

男「其の。如何して其の様に不機嫌なお顔を為さって居るのでしょう……?」
女「あら。気の所為よ、男くん」

男「はぁ」

571:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/27(日) 22:21:27.67 ID:V0dQfDOgP
女友「二人とも、お待たせしたな!」

男「おろ? 其れは?」
女「……」

女友「氷菓子だ。男さんには先日、丁度同じものを奢って頂いたからな。
 そのお返し、と謂う訳だ。御二人で食べてくれ」

男「あ、有難う御座います」

女「成程ね。女友に、氷菓子を、奢った。
 けれど今一つ解せないわね、男くん。わたしに説明をしてくれないかしら。
 わたしの記憶違いで無ければ確か、あの時氷菓子を買ってくるよう頼んだのは
 女友では無くて、わたしだった筈よね?」

男「こっ、此れには谷よりも深い理由が在りまして……」
女「あらそう。じやあ其の理由は後でゆっくりと訊かせて貰おうじゃあない」
男「……はい」

女「女友、氷菓子をどうも有難う。男くん、行きましょう」
男「はぁ」

573:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/27(日) 22:28:51.48 ID:V0dQfDOgP
――公園、夕暮れ

女「こう暑いと矢張り美味しいわね」
男「あの、女さん」
女「何かしら、男くん?」

男「未だ怒って居らっしゃるのですか……?」
女「あら。わたしはそんなに狭量な女では無いわ」
男「はぁ」

女「まぁ。どうせ男くんの事だから、
 女友と男友の為に一役買っただけなのでしょう。
 わたしにだつて、其れ位は解るわ」
男「……」

女「わたしやお父様の事だってそう。
 貴方は何時もそうやって他人の面倒事に巻き込まれる、御節介な人なのね」

574:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/27(日) 22:40:18.05 ID:V0dQfDOgP
女「……食べないの? 氷菓子」
男「食べたいのならどうぞ」

女「止めておくわ。此処で男くんに食い意地の張った女だと思われるのは、
 恐らく得策ではないから」
男「はぁ」

女「……」
男「……」

女「……然し、どうなのかしらね」
男「何がです?」
女「わたしとお父様は確かに此れから、少しずつ不和を解消出来るかも知れない」
男「ええ。きっと」

女「――でも、亡くなったお母様は、其れを赦してくれるのかしら」
男「女さん……」

女「お母様があの様な事に為って仕舞ったのは、
 確かにお父様の所為かも知れない。けれどわたしにもやはり責は有った。
 家族だったのだもの。関係が無い筈は無い。
 
 ――或いはお母様を救える唯一の人間は、わたしだったかも知れないのに。
 なのに、わたしは何も出来なかった。
 あまつさえ、わたしはわたしを独り置いて行ってしまったお母様を恨みまでした。

 そんなわたし達が此れからまた親子としてやつて行こうと謂うのは、
 矢張り幾分か虫がいい話なのでは無いかしらね」

576:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/27(日) 22:56:30.29 ID:V0dQfDOgP
男「女さん……」
女「御免なさい。大丈夫よ。少し不安になっただけだから」

男「けれど先生も仰って居ました。“最早自分を赦してはくれぬだらう”と」
女「そうね。……其の通りだと思うわ」

男「――けれど女さん。貴女のお母様は果たして、
 貴女や先生を憎み、世を儚んで行って仕舞われたのでしょうか。
 記憶の中の貴女のお母様は、優しい人だつたのでは無いですか?」
女「そうよ。お母様は優しい人だつた。
 少し困った様に笑うお母様の顔が、わたしは本当に大好きだった。
 けれど……」

男「屹度――お母様も貴女や先生に謝りたいのではないかと、私は思います。
 夫を支える事が出来ず、愛する娘を独り遺して仕舞った御自身を……」

女「そんなのっ。もう解らないじゃあ無い。
 確かめ様の無い、……只の、都合の良い推測だわ」

男「……女さん。
 もうすぐ日が沈みます。先生も御一緒に連れて、行きましょうか」
女「何処に行くと謂うのよ」

男「まぁ、良いから付いてきて下さい。
 これが私からの――最後の御節介です故」にこり

577:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/27(日) 22:58:59.51 ID:V0dQfDOgP
ちとここからは纏めて投下したいので、少し書いて来ます。

580:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/27(日) 23:01:44.26 ID:o9h9Qrg+0
もりあがってまいりました
支援


584:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/27(日) 23:50:49.43 ID:Suu5sJQz0
クライマックス楽しみだわ




588:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/28(月) 00:26:16.05 ID:za1FXqcOP
――宵、草木の茂る小山

ざっざっざっ……

男「御二人とも、足下に気を付けて下さい」

女父「男くん、一体何処に行こうと謂うのかね」
女「……」

“――遠く、遠く昔に語られた此の街の伝承”

男「未だ本番の夏には少し在りますが、居てくれると良いのですが……」

女父「何を謂って居るんだ?」
女「さあ。わたしにもさっぱり」

“――初夏の宵。良く晴れた空に満月が浮かんで居らぬといけない”

589:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/28(月) 00:30:31.44 ID:za1FXqcOP
男「恐らく、此の辺りで間違いは無いと思うのですが……」

女父「然し思えば自分はこの小山に登つた事は無かつたな」
女「ええ、わたしもです」

“――場所は解るか? 悪いが先に行って居てくれ。後から吾輩も行くがな”

男「――っと。足下が泥かるんで居ますので、滑らぬようにして下さい」

女「泥かるむ? 暫くは雨など降らなかったのに」
女父「ふむ」

“――吾輩にも、其処で確かめねばならぬ事が在る故”

男(猫さん……)

女父「と、危ない。大丈夫か、女」
女「ええ、有難う御座います」

“――木々の間を分け、拙い獣道を抜けた其の先。
唯一あの小山で木々が無く、月明りが差し込む其の場所は在る”

ザッ。

男「此処か……」

591:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/28(月) 00:35:30.88 ID:za1FXqcOP
女父「此れは……泉か?」
女「蒼い月の光で照らされて……。まるで鏡みたい……」

女父「如何やら湧水が出て居る様だな。
 先刻から土が泥かるんでいたのは此れの所為で在ったか」

女「男くん」
男「はい」

女「わたし達を此処に連れて来たのは、この景色を見せる為なの?」
女父「うむ。確かに美しい場所ではあるが」

男「……居てくれないのでしょうか」
女「居る? 先刻から何を謂って居るの?」
女父「男くん? 一体君は何を企んで……」

ふわり。

男「――あ」
女「此れは、一体……?」

“――頼りの無い、儚い灯故。
 お主ら人間には目が慣れる迄見え辛いやも知れぬな ”

女父「此れは……」
女「――蛍。何時の間にこんなに沢山集まって……」

592:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/28(月) 00:41:47.81 ID:za1FXqcOP
……ふわり。

女父「女、あれは――」
女「そんなっ、まさかっ。――お母様っ!!」

*

猫「如何やら迷わずに辿りつけた様だな」
男「……猫さん」

猫「“姿灯”。空に雲ひとつ無い初夏の満月の宵にだけ起きると謂う言い伝え。
 泉に集まった幾百の蛍の灯が生者の想いに応じて――死者の姿に映ると謂う」
男「あの御二人には……」

猫「ああ。お主と吾輩には蛍の群れにしか見えぬが、
 屹度見えて居るのだらうさ。母君の姿がな」
男「……そうですか」

猫「ふむ。然し中々浮世離れした光景ではないか」
男「蒼い月明りが照らす中で、数え切れない程の淡い緑の灯が点滅して……。
 確かに此れはこの世のものとは思えないです……」

猫「嗚呼。此処にならば、
 或いは亡くした者の心が降りてきても不思議には思えぬな」

男「ええ……。本当に……」

594:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/28(月) 00:45:38.37 ID:za1FXqcOP
女「お母様……本当に御免なさい。わたしはっ」

女父「いや、謝らねばならぬのは自分の方だ。
 本当に済まなかった。幾千と謝っても赦されるとは思つて居らぬが……」

女母の灯「――」ふるふる

女「わたし、何も出来なかった。お母様が苦しんで居るのも知らずに……。
 其ればかりか、わたしはお母様を恨みすらした。
 どうか……わたしを赦して……」

女母の灯「――」にこり

女「如何して――如何してそんなに優しいお顔で笑うの……」

“――本当に謝らなければいけないのは私の方よ、女。
 貴女を遺してしまって、本当に御免なさい。
 恨まれても然るべきことを私はしてしまった。どうか私を赦して頂戴……”

女「そんな……っ!!」

595:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/28(月) 00:49:37.25 ID:za1FXqcOP
女父「自分は夫として、本当に失格だった……。
 お前や女を大切にしてやることが出来なかった」

女母の灯「――」ふるふる

女父「然し、決めたのだ。自分は此れまで失った時間を取り戻す為に
 尽力をする――もう逃げないと。
 だからどうか、赦して欲しい――見て居て欲しい。
 お前を追い込んだ此の自分が、
 此れから女と時間を過ごして行くのを……どうか……」

“――旦那さま。貴方が苦しんで居られる時に、私は何の支えにも為れなかった。
 どうか、女の事を宜しくお願い致します。
 其れが出来損いの家内であった私の、最後の願いなのですから……”

女父「済まない……本当に……」

“――女、どうか仕合わせに為って頂戴。
 私が謂える台詞では到底無いけれど、私が望むのは只其れだけだから……”

女「ええ、屹度――。……あれは少し頼りない男なのですが」くすり

“――旦那さま。私は本当に貴方の事を――御慕いして居りました。
 今の奥様を、どうか仕合わせにして差し上げて下さい……”

女父「其の様な……っ」

……ふわり。

“――さようなら”

596:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/28(月) 00:55:30.00 ID:za1FXqcOP
男「……猫さん」
猫「ん? 何だ?」

男「宜しければ、教えて下さい。
 猫さんが此処で確かめたかった事とは、一体何なのですか?」
猫「――旦那様に会えるのではないかと思っていたのだがな。
 然しどうやら駄目だったようだ」

男「然し、生者の想いに応じて蛍の灯が死者の姿を映すのならば――」
猫「やはり、旦那様は既に亡くなっていたのだらうか?」

男「……先生が御存知でした。数拾年前に、新たに越した先での事だつたそうです」
猫「……そうか」

男「申し訳ありません。本当は昨夜謂うつもりだったのですが……」

猫「気にするな。良いのだ。
 ああ、そうだ――お主の布団はとても寝心地が良かったぞ。
 旦那様と、あの様にして眠った夜を思い起こされるようだった」

男「猫さん……」

598:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/28(月) 00:59:34.77 ID:za1FXqcOP
男「然し、妙では無いですか。
 如何して猫さんには御主人の御姿が見えないのでしょう……」
猫「それは、まあ簡単な事よの」

男「……?」

猫「姿灯が映すのは生者の想い、生者の心。
 吾輩は――生者では無い故な。旦那様に御姿が見えぬのも道理であろう」
男「え……?」

猫「お主には吾輩は生きて居るように見えるのだらう?
 然し、恐らくあの娘にも、その父にも、男友にも。吾輩の姿は見えぬだらうさ。
 吾輩の姿が見え、吾輩の声が聞ける人間は本当に少なかった。
 故に壱百人の願いを訊くには、永い時を要したのだ」

男「そんな……っ」
猫「若しかすると、吾輩にも旦那様の姿が見えるのでは無いかと期待したのだが。
 ……伝承とは酷な迄に正しい物よの」

男「――猫さん」
猫「なんだ?」

男「私は確かに私の願いを叶えて頂きました。
 故に、此度は私が猫さんの願いを――御自身に契った言霊を叶えます」
猫「可笑しな事を謂う。お主に何が出来ると謂うのだ」

男「なに。只の――道案内ですよ」

602:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/28(月) 01:07:40.61 ID:za1FXqcOP
――街中、夜半の路

猫「おい、あの二人をあそこに置いて来て仕舞って良かったのかっ」
男「寧ろ、私が居ない方が良いでしょう。私は只の案内人に過ぎないのですから」

猫「其れはそうやも知れぬが……」

ザッ。

男「先生が御存知だつたのですよ。猫さんの御主人が眠られる処を」
猫「まさか……この街の此の寺に居られたのか……」

男「流石の猫さんも、亡くなった方の事までは解らぬようですね」
猫「どうして……」

男「行きましょうか、猫さん」
猫「……ああ。然し、まさかお主に道案内をされるとはな」

男「ええ。本当に、不思議な縁です」

605:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/28(月) 01:16:03.20 ID:za1FXqcOP
――お寺、夜半

男「さて。この中から猫さんの御主人の眠られる処を捜さねば」
猫「いや――」
男「はい?」

猫「解る……。何故かは知らぬが。
 旦那様が吾輩を、呼んでいらっしゃるような……そんな気がするのだ」
男「猫さん……」

猫「――嗚呼。この声を、間違い様が無い。
 幾千の夜、幾千の夢の中で訊いた、この御声を……」
男「……っ」

猫「――なぁ、男よ」
男「何でしょうか、猫さん」

猫「吾輩はお主に逢えて、本当に良かった」
男「其れは私とて同じです、猫さん」

猫「――では、行くよ」
男「……ええ」

猫「然らばだ――我が友よ」

607:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/28(月) 01:20:51.62 ID:za1FXqcOP
――追想

――あの夜、空にはぽっかりと満月が浮かび、
その蒼い光が猫さんの後姿を照らして居りました。

数多く在った墓石の中の、或る一つに迷い無く駆け寄られた猫さんは、
夜の中に、溶けて行かれました。

然し、その瞬間、私にははっきりと見えたのです。

猫さんを抱き締め、其の身体を撫でて居らっしゃった一人の紳士の姿が。

此れは後に訊いた話しなのですが、
その紳士が此の街を離れねばならなかった時、
猫さんは遠くへ、行つた事の無い街へ御散歩に行きでもしたのか、
御家に帰つて来なくなつたそうです。

御主人は猫さんを遺して他の街へと。
そして御主人を捜して居た猫さんは
何時か、何処かでその御命を果てたそうです。

其れを呪縛霊と呼べば良いのか、寡聞にして私は存じませんが、
そうなった後でも猫さんは何処かに居るやも知れぬ
御主人を捜し続けていたのだと――其れだけが私の知る処なのです。

611:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/28(月) 01:31:04.93 ID:za1FXqcOP
――幾日後。街中、自転車二人乗り

かららららっ……。

女「ほら。早くしないと、船の到着に遅れて仕舞うじゃあない」
男「そう仰るのならば、御自分の自転車で行かれれば良いでしょう」

女「なにかしら。男くんは私に口応えをするつもりなのかしら?」
男「くっ。滅相も御座いません」
女「解れば良いのよ、解れば」

男「それにしても」
女「なにかしら?」

男「あのお家にも、また人が増えますね」
女「まぁ、そうね」

男「上手く遣って行けるのでしょうかね。
 女さんは口も態度も悪いですから。
 お義母様に意地悪をしないか、心配で――痛い痛いっ!」

612:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/28(月) 01:34:40.73 ID:za1FXqcOP
女「……お父様にも仕合わせに為って頂かなければいけないのだから。
 わたしに出来る事なら何でもするわ。
 だって其れがお母様の願いなのだから」
男「ふふ。そうですか」

“――っくく。相変わらず尻に敷かれて居るようだな”

男「――え?」
女「どうしたのかしら? 急に振り向いては危ないじゃあない」
男「あ……いえ……」

――猫さん、如何やら私はとんでも無い女性に惚れてしまつたようですよ。

女「何か謂つた?」
男「――月が綺麗ですね、と」

女「月? 月なんて出て居ないじゃあない」
男「――愛していると、そう謂つたのですよ」

女「なっ。何を急にっ――!」
男「さて、急がないと船の到着に間に合いませんよ〜」

かららららららっ……。



猫「吾が輩は猫である」お仕舞い。


617:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/28(月) 01:37:56.27 ID:qDxLSC3i0
>>1乙!

622:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/28(月) 01:44:00.86 ID:iX+XVSZi0
1乙
最後少しディスプレイが見にくくなった


627:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/28(月) 01:55:15.36 ID:T3o775Lx0


630:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/28(月) 01:57:44.79 ID:vuo0uBXhO
乙!余韻に浸りながら眠るよ。

631:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/28(月) 02:01:01.80 ID:za1FXqcOP
何とか最後まで書き切る事が出来たのは、
遅筆な自分を気長に待って支援や保守をしてくれた皆さんのお陰です。
本当にどうもありがとう。絵を描いてくれた人もありがとう。

拙い文章でしたが、少しでも楽しんで貰えたのなら嬉しいです。

では、また何処かで。 8

632:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/28(月) 02:01:45.66 ID:0f8jhZVX0
>>631
楽しかった。本当ありがとう
乙です


633:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/28(月) 02:03:50.59 ID:BDIjqfOT0
>>631
本当に楽しかった、また書いてくれよな、楽しみにしてるぜ


636:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/28(月) 02:05:03.89 ID:zTo50cis0
>>631
楽しかったですよーお疲れ様でした!


653:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/28(月) 03:00:56.37 ID:HTU/LOOJ0
いやー良い話だった。
>>1乙でした。


672:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/28(月) 05:25:40.14 ID:ZrSfpULdO
>>1
面白かったし感動した。
なんか夏目漱石を読みたくなった。
またの作品を楽しみにしてます。


673:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/28(月) 05:25:53.53 ID:7OjCte5gO
良いスレに出会えてよかった。ありがとう>>1

694:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/28(月) 08:22:05.01 ID:DGhf0daq0
面白かった。
本当に>>1お疲れ様でした


711:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/28(月) 12:16:28.76 ID:eDHqiqo7O
>>1
素敵な物語をありがとう



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